前回、艦隊防空の基本について取り上げた。艦隊防空に限ったことではないが、防御側が進化すれば、攻撃側はそれを打ち破ろうとして工夫を凝らすし、それを受けてまた、防御側が工夫を凝らす。こうして終わりのないいたちごっこが続く。

3隻寄れば文殊の知恵?

前回に取り上げたNTDS(Naval Tactical Data System)からしてすでに、複数の艦をネットワーク化して情報を共有する仕組みを実現していたわけだが、あくまで情報の共有だけである。

ネットワークに早期警戒機を加えれば、監視可能な範囲は一気に広がる。早期警戒機は高いところを飛んでいる分だけ、水上艦よりもレーダー探知可能範囲が広いからだ。その早期警戒機と水上艦が探知データを融合・共有すれば、水上艦にとっては水平線以遠まで視界を広げるのと同じ効果を得られる。ただし、監視情報を共有するだけという点は同じだ。

何を言いたいのかと言うと、監視できる範囲がすなわち交戦できる範囲、とは言えないという話である。艦対空ミサイルを使うには、それを発射する艦の射撃管制レーダーを使用する必要があるから、艦載レーダーでカバーできる範囲でしか交戦できない。

もっとも、共同交戦能力(CEC : Cooperative Engagement Capability)を持ち込めば、情報の共有だけでなく交戦もネットワーク化が可能だし、単独のプラットフォームで頑張るよりも、カバー可能な範囲を拡大できると期待できる。つまり、CECを使うと、広い範囲に散開した複数の艦や航空機が一体になって、あたかも1つのプラットフォームであるかのように振る舞えるからだ。

ちなみにこのCEC、昔は米海軍以外はイギリスぐらいにしか輸出が認められない「箱入り娘」だったが、近年では規制が緩和されたようで、日本やオーストラリア向けの輸出が実現した。

米国防総省で対外武器輸出を取り仕切っている、米国防安全保障協力局 (DSCA : Defense Security Cooperation Agency)という組織がある。そのDSCAが2015年8月7日に、「日本向けにイージス戦闘システム一式をFMS経由で輸出する」と発表した際、リストにはCECの機材も含まれていた。2隻分で15億ドルというから、1隻当たり7億5000万ドル。つまり大ざっぱに言うと、イージス艦のお値段の半分ぐらいはイージス戦闘システムが占めていることになる。

これにより、これから建造する新しい海自のイージス護衛艦はCECにも対応するわけだ。また、航空自衛隊ではE-2D早期警戒機の採用を決めているが、これもCECを使える資産の1つである。ということは、イージス艦とE-2D早期警戒機がCECを使って連携する形を日本でも実現できる日が来る(かもしれない)ということになる。

視程外交戦を強化するNIFC-CA

そのCECのシステムを活用して、自艦のレーダーで探知できる範囲よりも遠くまで交戦可能範囲を広げようという話が出てきた。それが、最近になってポツポツと話題になっているNIFC-CA(Naval Integrated Fire Control-Counter Air、ニフカと読む)である。

NIFC-CAのCAはカウンターエア、つまり対空戦のことだ。統合化した射撃指揮によって、空から飛来する航空機、あるいは巡航ミサイルといった脅威に対処するために、迎撃する側のリーチを延ばそうという話である。そのNIFC-CAでキーとなる装備が、RIM-174 SM-6艦対空ミサイルである。

もともと「スタンダード」(standard。「標準」に加えて「軍旗」という意味もある)という艦対空ミサイルがあり、Standard Missileを略してSM-○○と称していたのだが、今では「SM-」自体が1つの固有名詞と化した感がある。と、それはともかく。

SM-6の外観は従来のSM-2と似ているが、誘導方式に違いがある。従来のSM-2は命中直前に、艦のミサイル誘導レーダーで目標を照射してやる必要があった。ということは、SM-2で交戦できる範囲は艦上のミサイル誘導レーダーが届く範囲に限られる。

ところが、SM-6はAIM-120 AMRAAM(Advanced Medium Range Air-to-Air Missile)空対空ミサイルの誘導システムを流用することで、自らレーダーを内蔵することができた。自前のレーダーを持っているから、目標の位置を入力して撃ってやれば、後は自分で目標を探して飛んでいってくれる。これならミサイル誘導レーダーの有効範囲に縛られない。

自らレーダーを内蔵するSM-6とNIFC-CAのコンビは、交戦可能範囲を水平線の向こう側まで広げる 資料:US Navy

コンピュータと電子機器の進歩が不可欠

そのSM-6とCECを組み合わせると、こういうことになる。

まず、艦隊上空を飛んでいるE-2D早期警戒機が脅威の飛来を探知する。水平線の下に隠れている目標でも、上空にいるE-2Dなら艦載レーダーより早く探知できる。

その情報を受け取ったイージス艦は、自艦のAN/SPY-1レーダーではなくE-2Dからのレーダー情報に基づいて、飛来する脅威の針路・速力に基づいて予想会敵点を割り出し、そこにSM-6を発射する。発射後のSM-6は、指示された場所に向けて飛翔した後、自らのレーダーで目標を探して交戦する。

こうすれば、艦上の捜索レーダーやミサイル誘導レーダーがカバーできない、水平線の向こう側にいる目標とでも交戦できる。うまくいけば、目標が水平線のこちら側に姿を見せる前に撃ち落とせるかもしれない。それを支えるのが、「早期警戒機による広域捜索」「CECによる共同交戦」「SM-6による撃ち放し・自律交戦」というわけだ。

こんな仕掛けが考え出された背景には、対艦ミサイルの性能向上という事情があった。海面スレスレを飛翔するシースキマー型の対艦ミサイルは探知が難しいし、超音速の対艦ミサイルは飛翔高度が高くなる代わりに時間的余裕に乏しい。すると、できるだけ早い時期に発見・交戦したいので、水平線以遠までリーチを延ばしたい、という話につながるわけだ。

それをもたらしたのはいうまでもなく、電子機器の性能向上と小型化(SM-6の実現)、それと情報通信技術の発達(CECとNIFC-CAの実現)である。