レーガン、ブッシュの共和党政権(1980~1992年)から民主党のクリントン政権(1992~2000年)を通じ、基本的に規制緩和政策が継続される中、米国の放送および通信産業では大競争時代が続いた。

公衆通信の巨人AT&Tに対しては、1970年代に独占禁止法違反の判決が下された。これを受けて1980年代以降は、長距離、近距離通話の解禁、国内・国際通話、携帯電話事業への参入の自由化が続いた。この結果、1984年に米国通信市場の90.1%を支配していたAT&Tは分割され、1994年にはそのマーケット・シェアーは55.2%まで低下した。

一方、規制緩和による市場の開放は、マイクロソフトやアップルなど、新規IT企業の誕生をもたらした。また、これらの企業が参入したことで市場が活性化し、トータルな通信、情報市場のボリュームは飛躍的に拡大した。

シェアを下げたとはいえ売り上げは上がったAT&T

例えばマーケット・シェアを下げたとはいえ、AT&Tの売り上げは、1979年の400億ドルから分割後の1994年には750億ドルに達した。

(1996年の通信法によって再分割された後のAT&Tの通信サービス市場でのシェアは7%に、売り上げも490億ドルに下がった。しかし、AT&Tが2001年以降、合併、再合併を繰り返して再び巨大なメディア複合企業体(コングロマリット)に生まれ変わったのは御承知の通りである)

さらに、コンピューメーカーの巨人であったIBMも、同じ時期にマーケット・シェアを13.6%から9.4%と4.2ポイントも下げたが、売上額そのものは228億ドルから640億ドルに伸ばした。

逆にテレビ3大ネットの一つであるCBSの1979~1994年の売り上げは、各年30億ドル前後で大きな増減はなかった。だが、マーケット・シェアは1.9%から0.5%と大幅に低下。これは、マーケットに多数の有線放送局(CATV)が参入して消費者の選択肢が広がったことを示している。

セブン・シスターズが繰り広げる「帝国主義的競争」

こうして拡大した世界一の情報通信市場を、多くの企業体が奪い合い、呑み込み合った。その結果、米通信市場が、「ファイブ・ブラザーズ、セブン・シスターズ」へとその姿を変身させて行く過程が、1990年代から現在までのメディア・コングロマリットによる帝国主義的競争なのである。

コロンビアビジネススクールのエリ・ノーム教授の研究によると、1994年の段階で、情報通信業界に君臨していたのは、(1)AT&Tを筆頭とする通信各社、(2)IBM、ヒューレットパッカード、アップル、コンパックなどのコンピューター・メーカー、(3)ABC、CBSなど3大テレビネットであった。この時点でマイクロソフトは、コンパックやユニシスにも後れを取り、業界26位(売上順)でしかなかった。

1994年からの17年間にかけて、下図のような「セブン・シスターズ」に集約されていったわけである。

世界の"セブン・シスターズ"(出典:「週刊東洋経済」2008年4月12日号)

本コラムの第4回でも紹介したが、こうしたメディアの寡占・集中化については、多様な言論の自由を束縛する「民主主義の危機」と警鐘を鳴らす人は多い。

FCC(連邦通信委員会)や連邦議会、公正取引委員会によるメディア規制と規制緩和の歴史を見ると、二つの哲学に立っていることが分かる。

ネット時代に適合しなくなった「古典的規制論」

一つは、特定メディア産業における垂直的統合・合併は「公平な競争の敵」という考えである。ここからパラマウント・ピクチャーズやMGM(Metro Goldwyn Mayer)などに対して、映画製作プロダクションと映画館チェーンの資本分離、ネットワーク局と番組制作プロダクションの資本分離政策が行われてきた(これらの多くは1996年の規制緩和で解除された)。

もう一つは、「動態的規制」というべきもので、同じ地域でのテレビと新聞のクロス・オーナーシップ(同時保有)禁止条項がその典型である(日本の「マスメディアの独占排除原則=マス排原則」はこの考えを踏襲したものである)。

前出のノーム教授は、こうした「古典的規制論」について、次のように述べている。

「周波数やチャンネルなど市民がアクセスできるメディア・プラットフォームが限られていた時代は、"稀少な国民財産(である電波)の公平、有益な利用配分"という規制を合理化する理由があった。巨大な独占的情報供給者と、技術的に立ち向かうすべもない受益者の間に生ずる不公平や格差を取り除くというのが、規制を支えたもう一つの論理だった」

その上で、以下のように疑問を投げかける。

「しかし、さまざまなメディアが融合する新しいサイバー時代に入り、発信者と受益者(国民)の関係は劇的に変化した。インターネット自体が、集中化より分散化に働く機能を持っている。こうした時代に従来の規制論理は適合しない」(Eli M. Noam "Media Concentration in the United States")。

教授の主張にもう少し耳を傾けてみよう。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。