13日からニューヨークに滞在中だ。ヴァレンタインデイから15日のプレジデントデイまでは3連休で時差調整ができた。
16日には2年前、コロンビア大学院滞在中に「メディア・インテグレーション」理論を教わった同大学院「通信情報技術研究所」所長のエリ・ノーム教授を訪ねた。
「メディア・インテグレーション」理論については近著『次に来るメディアは何か』(ちくま新書)でも紹介したが、最近では日経新聞が教授のインタビュー記事を載せた(09年11月)こともあって国内でも関心を持つ人が増えている。
近年、映画と全米TVネットワークを中核企業として成長を続けてきたメディアコングロマリットに、肥大化、非効率現象が目立ち始めた。これに対し、各種メディアを集合してニュースコンテンツの集積と配信機能に集約した産業形態がニュース・インテグレータといえる。
以下は、教授とのインタビューである。
──近年、アメリカでは新聞産業の衰退、TVネットワーク局の収益悪化が進行中です。こうした中、先生のおっしゃるメディア・インテグレーションは、どのように進んでゆくのでしょう。
ノーム教授 メディア・コングロマリットは、あまりにも野放図に肥大化したために、例外を除いては、経営者のリーダーシップが発揮しにくい非効率な体質になった。また、マードック氏の「ニューズコープ」を除くと企業連合の中に新聞社が含まれてない。ニュース・インテグレータの特徴はニュース・コンテンツの集積と配信にあるのだから、新聞、テレビ、IT産業といった区分は消えるが、ニュース・ビジネスが中心となる。これが最大の違いだ。
──アメリカでの市場規模を考えたとき、最終的にはいくつくらいのメディア・インテグレータに集約されてゆくのでしょう。
ノーム教授 インターネット技術の進展でローカル紙中心であったアメリカの新聞界が主要紙中心に全国紙化しつつある(地方紙の経営破たんにより淘汰が進んだ結果でもある=筆者注)。だからインテグレータは、ウォールストリート・ジャーナル、フィナンシャルタイムズなどの全国ブランド、それにローカルニュース中心のもの、その他、特殊な専門メディアの三層に分かれてゆく。いずれ10社以内に整理されてゆくだろう。
──現在約1,400ある新聞、4大TVネットワーク、数千もある地方TV局、有線、衛星TV局がそこまでに集約されるのですか。
ノーム教授 そうだ。
──既存メディアの生き残りに関してウェブ情報に課金する「ペイウォール」の動きが盛んですが。
ノーム教授 ニュースコンテンツの課金に関する議論は混乱している。一般ニュース、通常のスポーツ記事、ファッション、グルメ、評論、社説などは有料化できない。競争相手がいくらでもいるからだ。昨年末からコンテンツの有料化に踏み切った「newsday.com」(米新聞社ニューズデイが運営)の有料契約者が現在のところ65人という悲惨な結果を見てもわかるだろう。既存メディアが談合して、グーグルなどのプラットフォームにコンテンツを一切出さないようになれば別だが、それは実際上不可能だ。また、強引にやれば独禁法違反で刑事告発されかねない。
だから課金の可能性があるのは、金融・経済情報、限定された需要のある特定情報、それに密度の高いローカルニュースだ。金融商品情報が有料化できるのは、競争相手が知っている情報を知らない場合、損失が大きいからだ。(早期入手が重要という点で)時間的要素が強い情報と言える。
ただし、有料の金融情報も時間の経過で料金が下がってゆくようになる。つまり課金といっても大変複雑なシステムになるのだ。
ここに挙げたような課金できる情報をすべて自前で調達することはコスト的に不可能だ。だから複数、異業種の企業体を集合して情報を吸い上げ、配信するメディア・インテグレータが生まれるのだ。
──そうするとマードック氏の言う「コンテンツは王様どころかエンペラーだ」という発言は時代遅れなのか。
ノーム教授 答えはイエスでありノーだ。メディアの革命は技術だけで起こるのではない。メディア・コンテンツを出すほう(レイヤー)が一体化してグーグルなどプラットフォームに情報を出さないとなれば「コンテンツは王様」になる。しかし、これは先にも言ったように非現実的だし独禁法違反になる。
──メディア・インテグレータにおけるエディターと、現在の新聞社の編集者とではどう違うのでしょう。
ノーム教授 さまざまなニュース提供者からのコンテンツについて品質管理を行ない、消費者のニーズに沿ってカスタマイズする点だ。消費者の数だけカスタマイズされたニュース・レターを電子的に送り続けることである。
(インタビュー続く)
執筆者プロフィール : 河内孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。近著に『次に来るメディアは何か』(ちくま新書)のほか、『新聞社 破綻したビジネスモデル』『血の政治 青嵐会という物語』(新潮新書)、『YouTube民主主義』(マイコミ新書)などがある。