前回述べた、非営利的組織(NPO)の調査報道基金については、別の機会に触れる。
ところで、6月30日の「メディア・パブ(media pub)」によると、最近Googleは、動画ニュースパブリシャーに、YouTubeパートナープログラムへの参加を呼び掛けているという。
YouTube上で新製品の紹介、パブリシティーを行い、マネタイズも支援するという。いわばYouTube上での「記者会見」だ。これが定着すれば、各社のニュース・リリースを見て原稿を書くという手間が省ける。批判、評価はユーザーの書き込みにゆだねるという姿勢だ。
GoogleがYouTubeに「専門レポーター養成講座」
一方で、「The YouTube Reporters' Center」を立ち上げ、調査ジャーナリズムも立ち上げた。このサイトでは、ニューヨーク・タイムズのニコラス・クリストフ記者の、「危険地でのルポルタージュ作業」や、ワシントン・ポストの花形記者、ボブ・ウッドワード記者による「調査報道とは」を見ながら研修に参加できる。専門レポーター養成講座だ。私もニューヨーク・タイムズの論説委員による「コラムの書き方」講座を視聴したが、実用的で役に立った。
つまりGoogleや、前回も触れたハフィントンポストは、経営的に厳しくなってゆく新聞社サイトの弱体化、消滅は避けられないものとみている。その場合、インターネット・アグリゲイタ―への情報流入は大幅に減少するだろう。その日に備えて、独自のニュース提供網を開拓しておこうとしているのだ。
だからアリアナ・ハフィントン氏に言わせれば、既存の新聞社を救済しようという試みは、「21世紀の初めにデトロイトの自動車産業経営者が多大のエネルギーと資金を使って議会に救済のためのロビー活動を行ったことを思い出させる」だけなのだ。
ロビー活動が如何なる結果を招いたのかは、(GM、クライスラーの倒産という形で)米国民が今、目の前にしている。
新聞後のジャーナリズムとは?
確かに、各界の専門家が提供するブログ、市民ジャーナリストが発信するニュース、Wikipediaに集積された膨大な知識。さらに人々と社会は今、簡易型ブログ「Twitter」やメール送信でつながり、常時オンライン状態になった。
マンハッタンのハドソン川に着水した航空機からの「全員安全脱出劇」(2009年1月)は、いち早く機側にこぎ寄せたフェリー乗り組員らの携帯電話から一報され、そして中継された機長の冷静なふるまいは世界を感動させた。
インド・ムンバイでの人質事件では、閉じ込められた人々から刻一刻と世界中に送られた画像・音声情報が事件解決に役立った。
イラン大統領選挙後の抗議行動を伝える、荒い、しかし人々をくぎ付けにする映像は、もはやいかなる国家も完璧な情報管制が出来ないことを教えている。
しかし、依然として「インターネットのニュース・サイトは素晴らしいツールだが、ニュース報道に関する限り第一次情報はほとんどない」(元ジャーナリストでテレビプロデューサーのデイヴィット・サイモン氏)、という声は強い。英議会で6月に証言したメディア・アナリストのクレイヤー・エンダ―氏も、「オリジナルなニュース・コンテンツに占めるブロガーの寄与率は全体の6%に過ぎないという調査結果がある」と言う。
だから米上院公聴会でのディベートは、多様な言論、真実の追求という国民の利益を守るために、「既存のジャーナリズム組織を守るべきなのか」「新しいジャーナリズムを創出するのか」という立場の違いが鮮明に出た場でもあった。
ソフトランディングへの期待が裏目に
こうした救済論に対する米国言論界の大勢は冷ややかで否定的であることは、すでに述べてきた。では米国の新聞界は"自然死"を待つだけなのか?
既存のプリントメディアは、電子新聞の広告収入で会社経営を行える体制には、全く達していない。Rocky Mountain Newsの例で見たように、「ただちに組織人員を四分の一にして、ネット収入が今後5年間40%づつ増えたら、何とか採算ラインに乗る」という状況なのだ。
それでも2008年までオンライン広告収入が2桁で伸びていたから、「何とか既存のモデルを維持しながら徐々にインターネット広告モデルで採算が取れるところまで持って行けるのではないか」というソフトランディングへの期待を高めすぎた。それが裏目に出たのだ。
執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。