「Google News」を巡り、AP通信が新たな保証金体系要求
AP通信のトム・カーレイCEOは、最近行ったフォーブスマガジンとのインタビューで、Googleと行っている「コンテンツ提供保証料金(Underwrite)」交渉がこの数カ月間難航していると明らかにした上で、Googleへの憤懣を以下のようにぶちまけている。
「もし正当な合意に達しない時はニュース提供を拒絶することもある。その場合、加盟各メディアと協力して新たなニュース専用サイトを立ち上げることも考える」。
実はAP通信とGoogleは、2006年~2007年にかけても、コンテンツ利用をめぐって訴訟寸前まで行ったことがある。
「Google News」についてのGoogleの基本的スタンスは、「記事の見出しには著作権はない。見出しで検索した読者は、それぞれのコンテンツ・ホルダーのサイトに飛んでゆき、そのトラフィックを上げる。それによって各サイトは広告モデルで売り上げを立てられるのだから"Win-Win"関係ではないか」というものだ。
こうした考え自体は、日本でも基本的に受け入れられており、2005年10月の知財高裁判決は、「新聞、通信社の見出し表現は、著作物として保護されるための創作性を有するとは言えない」としている。
結局、その時の交渉は、一定の「コンテンツ提供保証金」(金額は非公表)を支払うことで合意した。しかし今回、カーレイCEOは、Google Newsが単なる見出し検索の範囲を超えていること、無数の零細サイトがGoogle Newsから記事をリンクすることでAP通信ニュースの著作権が侵害されていると主張、新たな料金体系の設定を求めている。
この背景にはAP通信の苦しい"お家の事情"がある。出資者、加盟社である全米の新聞社が次々経営破たんして、「会員社減」と「売上ダウン」のダヴル・パンチに見舞われているのだ。
エリック・シュミットCEO、新聞業界に「さらなる自己革新」要請
こうした中、4月7日にカリフォルニア州サンディエゴで開かれた全米新聞協会に、Googleのエリック・シュミットCEOが招かれ講演した(講演の模様はYouTubeで閲覧できる)。
Google Newsなどインターネット・アグリゲイターを、「著作権の海賊」と決めつけたニューズ・コーポレーション社主のルパート・マードック氏の発言。加えてカーレイ氏の挑戦的なインタビューの直後だけに、米新聞界のボスたちとシュミットCEOとの"遭遇"に全米メディアの注目が集まった。ニューヨーク・タイムズは、「緊張高まる対決」とまでコメントした。
しかし、ふたを開けて見れば、シュミット氏講演は、「静かで抑制のきいた」内容で、「"対決"には程遠いものであった」(http://www.editorsweblog.org/)
講演でシュミット氏は、新聞が果たしてきた米国の民主主義、公共性への貢献を高く評価し、IT時代への取り組みについても、その努力をたたえた。しかし、同時に、「新聞が現在の苦境から脱出するためには、一層の努力が必要だ」とさらなる自己革新を求めた。
具体的には、新聞業界がよりスピーディーにオンライン化を進めることで読者を5倍にも10倍にも増やすことができる。これによって広告売り上げも質量で倍加する。このような、「Eコマース」ビジネスモデルへ転換してゆく必要性を説いた。
「少額課金システムよりはオンライン化推進を」
シュミット氏は新聞界に高まる、「コンテンツの有料課金」への期待について、以下のようにやんわり否定した。
「有料化出来るサイトは、ありうるかも知れないが極めて限定的なものに絞られるだろう。インターネットの特性はユビキタス性にあるから、限られたユーザーに、限られた情報を提供するモデルはなじまない」
有料化や、少額課金システムを追求するよりは一層、オンライン化を強力に進めることで得られる合理化、コストダウンと新しい広告モデルの導入によって経営を支えてゆく道を推奨したのだ。
知的所有権をめぐる問題についてシュミット氏は、「Google検索の対象になりたくないと考えるメディアは、申し出るだけで簡単にコードから外れることができるが、実際そう申し出たところはほとんどない」と、新聞側から見れば"居直り"とも思える強気の姿勢に出た。
シュミット氏発言、日本のマスコミは「ほとんど報道せず」
シュミット氏の婉曲な発言を、よりストレートに分かりやすく解説したのは『Googleは何をもたらすか』の著書もあるニュ-ヨーク市立大大学院教授(ジャーナリズム論)のジェフ・ジャービス氏だ。
彼は自身のサイト(4月7日付)で、新聞・通信社の反応を以下のように切り捨てた。
「こうした化石のような新聞、通信社とのリンクはGoogleの方から切断するべきなのだ。Googleが、これらメディア各社とのリンクを外せば、彼らのサイトは一夜にして三分の一のトラフィックを失うだろう。もし全てのアグリゲイター、ブロガー、SNSがリンクを外せば、アクセス数は半減以下となる。各種調査を見ても、ユーザーが直接そのサイトにアクセスしている比率は20%以下なのだから」。
わけのわからぬ連中には、痛い目を見させないとだめなのだ、という元気のいい主張である。
ただ筆者が物足りなく思ったのが、シュミット氏の演説後、新聞発行者からの質疑がほとんどなく低調だったこと。さらにがっかりしたのは、自らの運命にもかかわるこのニュースを、日本のマスコミがほとんど伝えなかったことだ。
執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。