『週刊ダイヤモンド 2008年12月6日特大号』の特集「新聞・テレビ 複合不況」は、私も取材を受けたから言うのではないが、タイムリーな好企画だった。

もっとも記事の中に、やや「飛ばし」では、と思われるものもあった。フジテレビの日本経済新聞接近説は、根拠薄弱。ただ今後、赤字基調のテレビ東京の扱いについて協議することは十分、ありうる。

フジテレビの「意中の人」は日経?

朝日新聞社が株の持ち合いをフジに打診したのは、事実のようだが時期が古い。フジがホリエモン(元ライブドア社長の堀江貴文氏)の、ニッポン放送株買収で苦しみ、朝日新聞社も社主、村山家の株処理問題に悩んでいた頃の"接近遭遇"で今や、なかった話となっている。

この特集で注目されたのは、「台風の目はフジテレビ! 新聞社・テレビ局再編関連図」という図表だ。ご覧になっていない方のために簡単に説明してみよう。

「台風の目はフジテレビ! 新聞社・テレビ局再編関連図」(『週刊ダイヤモンド 2008年12月6日特大号』より引用)

同誌は、日本メディア界最大規模(売り上げ5,754億円、経常利益270億円)のフジテレビがメディア再編成の軸になると予測する。10月の認定持ち株会社発足時、出資比率40%強の産経新聞社を子会社に組み込まなかったのは、新聞社の再編成をにらんでフリーハンドを確保するためだった、と分析する。

その、「意中の人」はどこか。経済情報で強いブランド力を確立した日本経済新聞社だ、というのだ。

ただ日経には、今のところ"その気"はない。日経は来年の新社屋移転を控えて、「新聞社(新聞紙を発行する会社)から新聞紙も発行する「ペイパー・ウイズ・IT企業」への転換を急いでいる。このためには朝日、読売両新聞社と進めているANY提携によって、印刷、配送、配達、集金――という下流工程を徹底的に合理化しなくてはならない。

ANY提携によって合理化を目指す朝日、読売、日経の3社

極論すれば、出版社のように原稿を印刷屋に渡したらお仕舞い、という作業工程に転換したい。図体が大きいからそうは簡単に行かないが、朝日、読売も思いは同じだろう。

この合理化の最大の悩みは、現行の専売店配達システムを共同販売システムに移行せざるを得なくなること。共同販売店は、本社に隷属する専売店のように「売れていない紙」を抱え込むようなことはしないから、各社の発行部数は、現在公表しているABC部数を大きく下回ることになる。

もし3社がこうした下流工程の切り離し、原料用紙の共同購入といった合理化に成功すれば、コスト削減額は1,000億円単位に上ろう。これで数年喰いつなぎ、消費税アップに耐え、新事業への投資資金を確保する――というのがANY提携の真の狙いである。

メディア再編では大手通信キャリアが核に

週刊ダイヤモンドの図表に戻ると、面白さは、提携スキームの中に大手通信キャリアを登場させた点にある。

ご覧になれば分かるように、NTTドコモは日本テレビに2.99%、フジテレビに3.26%出資している。KDDIは特定の放送局株を保有しない方針と伝えられるが、テレビ朝日と、コンテンツ流通などで業務提携関係にある。

欧米のメディア・コングロマリットを見れば分かるように、その投資規模の巨大さから、複合企業体の中核に大手通信キャリアが座るケースが多い。日本の場合、指摘したようにNTT法といった出資規制があるので、これを本連載第15回で述べた情報通信法制定と合わせて改正する必要が出て来る。

だから、こうした「環境整備」ができてNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの通信キャリアが本格的に動き始めた時、メディア再編成は、本番となるだろう。

フジ、読売・日テレ、朝日の「3大メジャー」予測

こういう情勢を踏まえて、この1~2週間、大手広告代理店、民放局幹部、若手官僚などと、「メディア再編成図」を大胆に予測してみた。

"放談会"だったし、意見の異なるところもあったが、共通項の上澄みをすくうと、こんな結果となった。

  1. 日本のメディア界は、3大メジャーと1つのユニークなグループによる3.5グループに集約されてゆくのではないか

  2. 3大メジャーとは、フジ・メディア・ホールディングス、読売・日本テレビ放送網(NTV)グループ、朝日・メディア・グループの三つ

  3. ユニークなメディア・グループとは、ジャニーズ事務所、吉本興業、エイベックス・グループ・ホールディングスなどが合体した「JYV」である

  4. 通信キャリアとの組み合わせは、KDDIが朝日・グループに、ドコモはフジ・メディア・ホールディングスに、ソフトバンクは読売グループと合体してゆくであろう

  5. 日経新聞グループは、経済情報に特化した情報ブロバイダ―として独立した企業経営体を維持する。この場合テレビ東京株は、3大メジャーに売却することも考えられる

  6. 産経新聞社は、経営不振の時事通信社と合体の上、フジ・メディア・ホールディングスが子会社とする

なかなか刺激的な大予測でしょう。次回は、「なぜ、そうなのか」を解説しよう。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。