かねて予想はされてきたものの、現実の数字となって表れると、それなりの衝撃があった。

今月13日、在京テレビ、キー局各社は中間連結決算を発表した。それによると、各社とも景気後退の影響で、売り上げの核である広告収入が減少、日本テレビ放送網(NTV)とテレビ東京は赤字転落した。赤字額は、それぞれ12億円と3億円。NTVは半期ベースで37年ぶり、テレビ東京は中間決算公表を始めて以来の赤字決算である。

売り上げの核である広告収入が減少、日テレとテレ東赤字転落

両社とも自動車、食品業界からの広告収入が大幅に落ち込んだ。東京の民放キー局が赤字に転落する事態は、世界的な経済不況による影響もあるが、経営体質の構造問題を露呈した結果ともいえる。

10月に持ち株会社に移行したフジ・メディア・ホールディングスは、前年同期に特別利益を計上した反動で大幅な減収、減益だが最終利益は確保した。ただ、それも番組制作費を約60億円圧縮したことや、通信販売子会社の業績に支えられた結果である。

売上高は第2位となるも、視聴率振るわなかったTBS

一方、TBSは、輸入品販売会社のソニープラザの買収や、赤坂複合商業施設の開業など、不動産関連の売り上げが貢献、売上高は前年比12.3%増の1,784億900万円、日本テレビを抜き第2位に躍り出た。

しかし、その中身はあまりほめられたものではない。広告収入はテレビが前年比6.9%、ラジオが7.7%のダウンで、経常利益は同9%減の113億3,400万円だった。視聴率競争でもゴールデンタイムで6社(NHKを含む)中4位、プライムタイム5位と振るわなかった。

最も注目を集めたテレビ朝日の中間決算

ある意味で最も注目を集めたのがテレビ朝日の中間決算だった。本連載第14回でも述べたように、テレビ朝日は、親会社の朝日新聞社との間で今年6月、新たな株の持ち合い関係を結んだ。

つまり朝日新聞社の筆頭株主である村山美知子社主の持ち株38万株(11.88%)をテレビ朝日が約239億円で取得した。

一方で、2社間の株持ち合いの場合、持ち株比率で25%以上の出資を受ける側の会社は、相手先の株式を保有しても議決権を行使できない。

そこで「両者の関係を支配関係からパートナーとするため」(秋山耿太郎・朝日新聞社長)、2008年6月6日現在で朝日新聞が35.92%持っていたテレビ朝日株を、次期株主総会までに25%以下にすることにした。

「あの朝日が! 」と驚きで迎えられた朝日新聞初の赤字中間決算

今回、同時に発表された朝日新聞社の中間決算では、テレビ朝日の持ち株比率は26.82%となっているから、この間にほぼ10%を放出し、関係財団に寄付、一部はテレビ朝日が自社株買いの形で購入したとみられる。

その朝日新聞社の中間決算も業界からは、「あの朝日が! 」と驚きの目をもって迎えられた。売上高は1,715億3200万円で前年比マイナス7.7%、営業損益が5億円余りの赤字(前年同期は74億円の黒字)、最終(当期)損益も、103億円の赤字(同47億円の黒字)だった。

同社が中間決算公表を始めて以来、初の赤字転落である。その原因は、広告収入の落ち込み、販売部数の減少もさることながら、テレビ朝日株の売却損44億円の計上が効いている。

「斜陽産業を救う余裕はないはず」株主はテレ朝に厳しい目

テレビ朝日株の株価推移を見てみると、年初は17万円台の上をつけていた。それが、朝日新聞社との株交換を発表した直後から下がり始め、10月には一時12万円割れ、中間決算発表後は12万円台を行ったり来たりだ。つまり、年初に比べで30%近く価値を下げている。

無論、株価の低迷は、テレビ朝日だけの現象ではない。しかし、朝日との株交換発表直後からの下げは、「マスメディアの媒体力が落ちている。朝日新聞とテレビ朝日の提携でメディアの衰退を避けたい」(6月6日、君和田正夫・テレビ朝日社長)という願望に対する、市場の冷ややかな受け止め方を反映している。

「テレビ朝日の現状と、利益から考えれば、270億円も使って"斜陽産業、朝日新聞"を救済する余裕は、全くなかったはずだ」(株主)という声には合理性がある。

"新聞産業を救済するため"の系列テレビ局との連結決算

数字は、正直である。無味乾燥な決算結果を上記のように羅列したのは、この中から日本の民放界が直面している問題が浮かび上がってくるからだ。

第一に、これまでにも書いてきたが、ビジネスモデルが破たん、構造不況に落ち込んでいる新聞産業を救済するための、系列テレビ局との連結決算。つまり、「お財布を一緒にする手法」に頼ることは、完璧な"老老介護"であることがはっきりした。「共倒れ路線」へのマーケットの厳しい反応も出た。

第二に、認定持ち株会社制度を使って、「メディア・コングロマリットを目指す」と言われても、実際は、"業績のいい"関連会社を束ねただけ。本連載第15回でも指摘したように、コンテンツを創出して世界市場に打って出て、稼ぐという方向性が見えてこない。

「認定持ち株会社移行」は、単なる"乗っ取り"防止策?

第三に、もしそうだとすると、フジ・メディア・ホールディングスやTBSが認定持ち株会社制を選択したのは、ホリエモン(堀江貴文・元ライブドア社長)や、楽天の株保有攻勢に懲りて「株式保有制限」、つまり乗っ取り防止対策にその狙いがあった、と言われても仕方がない。

またフジが、コンテンツ品揃えの上で不可欠と思える産経新聞社を子会社化しなかったのは、産経新聞社の経営が不調で、連結化すると決算が悪くなるという"見栄え"を配慮したため、と見られかねない。

私は、両社の経営者は、そんなマイナーな判断で動いたとは信じたくないのだが…。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。