さほど遠くない将来、既存メディア産業とNTTなど大手通信会社との融合、コングロマリット化は必然の流れに思える。

何故か。それは既存メディア産業の収益モデルが破たんに瀕しているからである。

誰の目にも明らかになってきたテレビ事業の"限界"

新聞業界の不振は、改めて取り上げるまでもない。広告売り上げが対前年比80%を切る新聞社が続出している。これに今年上期、製紙メーカーが要求し新聞社がのまされた「原料費値上げ」が一層、経営を圧迫している。

問題は、既存マスメディア4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の王者であった、テレビ事業の限界が誰の目にも明らかになってきたからだ。

業績の悪化を直近の数字で見てみよう。

2007年度の在京民放5社の業績(単位は億円、カッコ内は前期比増減率、上段は2008年3月期実績、下段が09年3月期見通し)

特別利益のあったTBSを除き、各社とも営業利益を大幅に減らしていることが分かる。さらに今年度の上期実績を見ると、スポット広告の急減によって、当初見込みを大きく下回ることが明らかになった。

北京五輪という追い風が吹いたはずなのに状況はさらに悪化している。しかもテレビ朝日は、開局以来の赤字に追い込まれそうな勢いである。このため同社では、7月に役員報酬を平均12%カットするなどの経費削減策を発表した。これに前後して、テレビ東京、TBSも役員報酬を15%カットする方針を発表している。

こうした状況を見ても、テレビ業界を取り巻くビジネス環境は、単なる景気循環を超えた構造的問題になっていることが分かる。

放送外収入が順調に伸びているフジテレビ

一方で、民放界のリーディング企業、フジテレビの放送外収入の伸び率を見ると、放送収入に反比例して順調に伸びていることが分かる。

編成局長当時、「放送外収入10%」の目標を掲げたフジ・メディア・ホールディングスの日枝久会長は、いま社内で、「放送外収入30%達成」という檄を飛ばしている。

現在のところ各社における放送外収入のメインは、映画製作である。今期でもテレビ朝日の「相棒」は、興行収入40億円を上げた。フジテレビ製作の「ザ・マジックアワー」も、30億円を超える興行収入をもたらしている。

映画製作の次に挙げられるは、当コラム第14回でも触れたTBSの不動産収入などだろう。

しかし、こうした放送外収入の構成・売り上げで、今後激化が予想されるグローバルなメディア戦争を勝ち抜いてゆけるのか、というとはなはだ心もとない。

日本を相手にするか? 世界を相手にするか?

グローバル・マーケットを席巻する欧米のメディア・コングロマリットと、日本のメディア産業の違いは10倍以上の売り上げの差だけではない。

日本の場合、あくまで国内マーケットを見据えた、上流から下流へのコンテンツ利用。つまり、人気マンガの連載→単行本のヒット→テレビ化→映画(もしくはアニメ)化→DVD販売→キャラクター・グッズの販売という流れが想定されている。

これに対し、欧米のメディア・コングロマリットでは、テレビ化もしくは映画化の企画段階で世界市場(マーケット特性を勘案したターゲット戦略)における需要予測と売り上げ目標が設定される。

この場合、使用言語が英語か日本語かは、あまり問題にならない。必要なら字幕も吹き替えも可能だからだ。グローバルに通用するコンテンツの魅力創出力が決め手だ。

問題は、コンテンツを1億2,000万人の市場で流通させてペイすればよいと考えるか、最低20~30億人の欧米、アジアマーケットを相手にして戦略を構築するか、の違いといえる。

日本型メディア・コングロマリット形成に何が必要か?

例えば最近、ハリウッドのコンテンツ企画力の低下から、日本や韓国のドラマや映画(例えば『Shall we ダンス?』など)のリメイクが増えている。これ自体は文化輸出で好ましい傾向。

だが、なぜプロデューサー側に、宮崎アニメのような、「輸出戦略」が初めからビルトインされてなかったか、とも思う。要はメディア戦略の差である。

では日本型メディア・コングロマリット形成のために、あるいは、そのパワーを促進するために必要な条件とは何か。

今夏、フジ・メディア・ホールディングスの日枝会長に会った時、彼が盛んに繰り返していたのは、「環境の整備」の必要性であった。

「環境整備」について、会長の分析をご説明しよう。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。