欧米で進むメディア・コングリマットの形成については当コラム第1回で触れた。簡単におさらいしてみよう。下の表は、欧米の主要なメディア・コングロマリットの事業構成、その下は概念図である。

欧米の主要なメディア・コングロマリットの事業構成(上)とメディア・コングロマリットの概念図(下)(出典:「週刊東洋経済」2008年4月12日号)

メディア・コングロマリットとは、従来、業種の異なった新聞、テレビ、映画、出版、インターネット・ポータルサイト、通信事業社などを持ち株会社の傘下に収め、そのシナジー効果によって経済合理性を高め、高収益を追求するための複合企業体である。ディズニーの場合、これに総合エンターテインメント業が、GEの場合は、金融業などが加わる。

「放送と通信の融合」を制約する現行の法体系

日本においても、こうした企業体形成が可能になる条件が整備され始めた。

前回取り上げた放送法の改正は、「特定認定持ち株会社」の設立条件を定めた。

また、2011年には、放送法と電波法などが融合した「情報通信法」の制定が予定されている。情報通信法が想定する放送と通信が融合した世界とは下図のようなものだ。

情報通信法が想定する、放送と通信の法制が融合した世界(出典:総務省資料)

これまで、日本の放送・電波行政は、テレビとラジオの免許及び放送条件を定めた放送法と、通信事業条件を規定した電波法の二本立てで行われてきた。一方は、一対多(公共性、報道の自由)、通信は一対一(通信の秘密)と、その基本条件が異なるため別々に整備された法体系であった。

デジタル化による技術革新は、こうした基本条件をすっかり変えた。USENのブロードバンド放送「Gyao」も地上波のテレビ放送も、視聴者にとって機能的には何の差もないのに、一方は有線電気通信法の所管であり、一方は放送法である。適用される法律が違うことで、流すコンテンツの制約条件が全く異なる。

あるいは、本コラムでしばしば取り上げたYouTubeの世界は、ホーム・サーバが日本国外にあるから国内法制や規制の対象とはならない。

より分かりやすい例が、デジタル化対策の一環として導入が検討されているIP電話。デジタル送信網整備が遅れている地域に光ファイバーでテレビ送信をしようというシステム。「テレビ放送」なのに、現行法制では電気通信事業法の所管である。

機能別の水平的法構成を目指す「情報通信法」

新しい環境に対応した通信、放送条件を整えるには、規制の緩和と情報の自由な流通を円滑化することが不可欠だ。

情報通信法については現在、総務省情報通信審議会の「通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」で審議が進められている。

基本的な流れとしては、コンテンツ制作から放送まで一体的、垂直的にとらえられていた法体系を、「コンテンツ」「プラットフォーム」「伝送インフラ・伝送サービス・伝送設備」などの機能別(レイヤー別という言い方をしている)に分け、水平的な法構成にして情報流通の円滑化を図ろうとしている。

審議会の議論で注目されるのは、「レイヤー間を超えた統合・連携は原則自由」との考えが主流となっていることだ。これなら通信事業社とテレビ局の合併、統合も可能になる。

テレビ朝日社長の発言に大きな注目

こんな背景があっただけに今年6月6日、朝日新聞社の株式をテレビ朝日が引き受けた際の記者会見で君和田テレビ朝日社長が、朝日新聞社が手放す12%近い同社株の行先に絡んで、「通信大手との提携も考える」と発言したことに注目が集まったのだ。

ただ、この騒動も比較的短期間で収まった。その理由は、通信事業最大手のNTTが「NTT法」で、放送会社への出資を3%以下に制限されており、持ち株会社になる条件を欠いていること。

さらに同二番手のKDDI小野寺社長も9月の記者会見で、「特定の放送局と一対一で結び付くのは適切でない。放送局に出資することは考えてない」と言明したからだ。

だからと言って、通信と放送の融合に向けたビジネス展開への模索が消えたわけではない。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。