2017年の総務省の調査※によれば、クラウドサービスを一部でも利用している企業の割合は56.9%,それらクラウドサービスを利用する企業のうち、「非常に効果があった」または「ある程度効果があった」として、効果を実感している企業の割合は85.2%あり、多くの企業でクラウドの導入によって効果を実感している状況と言えます。
(※) (出典)総務省「通信利用動向調査」
クラウドの活用によって、ハードウェアの調達やインフラの設計構築、ミドルウェアの導入が不要となるため、ビジネスの立ち上げスピード等にクラウドサービス利用者が効果を実感している一方で、IT担当者の立場では、クラウド導入による運用効果を実感していない方が多いのではないでしょうか。
本連載の第3回となる今回は、ITインフラの運用要素やマルチクラウド運用の改善のためのアプローチについて解説していきたいと思います。
ITインフラの運用要素と注力すべき領域
IT運用に関わる立場の方にとってクラウド活用のメリットはなんでしょうか?
連載第1回では、「従来のプライベートクラウドでは利用者自身が実施していた業務をクラウド事業者側で実施することで、利用者はインフラの運用管理から解放され、従来はインフラ運用に費やしていた工数をよりビジネスに近い上位のレイヤーに投入することが可能になる。」と解説しました。
しかし、何らかの理由でオンプレに残さなければならないシステムが存在する限り、オンプレミスとパブリッククラウドの共存形態である「ハイブリッドクラウド」の構成を選択せざるを得ないケースもあります。
オンプレ環境が残る間は、オンプレ固有のインフラ運用は継続して発生しますし、ハードウェアを設置している場所は、ビルの年次の法廷停電対応などが必要です(図1)。
ITインフラの運用にはオンプレミスであっても、クラウドであっても、共通の業務があります(図2)。
図中の青い領域は省力化(アウトソース化などのコスト削減を含む)対象で、赤い領域が注力すべき領域です。パブリッククラウドの活用で運用効果が期待できるのは青い領域ですが、マルチクラウド、DevOpsへの対応といったITサービス自体を進化させるためには赤い領域への注力が必須です。
マルチクラウド運用の実態
複数のクラウドの種類や数を運用する状況は、オンプレで複数のベンダーの物理サーバーや仮想基盤が乱立している環境を運用する状況と類似しています。
また、クラウド事業者が提供するサービスの仕様変更や終了によって発生する構成の見直しは、オンプレのハードウェアの保守切れに伴う一連の計画と同様の検討要素です。
クラウドを新規利用することで、新たな技術スキルの習得が必要になり、一時的にクラウドのスキルに精通した要員の追加、クラウド固有のセキュリティ対策のための体制の強化など、一定期間は運用コストが増加する可能性があります。利用するクラウドサービスの種類(IaaS、PaaS、SaaS)や数に比例するため、マルチクラウド環境では、これらのコストは増大します。
マルチクラウドのインフラ運用は、複雑に絡みあう様々な要因による品質の低下とコスト増が課題と言えるでしょう。(図3)
どうしたら運用が楽になる?
利用するクラウドの種類やサービスを限定して、環境をシンプルにすることができれば、運用するためのITスキルや要員が極小化できます。
しかしながら、昨今の多様な働き方を推奨するトレンドの中では、従業員の職種や業務スタイルによって利用されているITサービスも多種多様で、クラウドの多様化は指数関数的に増加しています。
クラウド環境に適した運用方法への見直しを実施しない限りは、期待しているほどの効果は見込めません。
クラウドの活用には多くの検討要素がありますが、その中で運用改善の効果が見込まれる方法をいくつか紹介します。
1.Infrastructure as Code(IaC)
IaaS、PaaSなどのパブリッククラウド環境では、使いやすいサービスが提供されており、それらを使いこなすことで運用コストの削減効果が見込めます。
加えて、運用コストの削減に成功した企業では、ChefやPuppetなどのDevOpsツールを使用して、事前定義された監視や自動バックアップなどのタスクを実行しています。
システム管理者が手動でプロビジョニングしている運用タスクをセルフサービスポータルを導入して半自動化することや、監視ツールが検知したシステムの状態によってシステム上で実行中のサービスを再起動するスクリプトを実行したり、システムの起動/再起動時にシステム間で特定のバッチを正しい順序で実行することを保証するタスクのオーケストレーションなど、IaC技術を活用した日常の運用タスクの自動化(図4)は、コスト、ガバナンス、およびセキュリティのためにクラウドを最適化することにも役立ちます。
2. クラウドアーキテクチャとインフラ運用の最適化検討と計画
ITインフラの運用体制は、インフラサービスとして担っているレイヤーが各社異なっていること、運用チームはジョブ監視やジョブネットワークの設定変更などアプリケーションの運用までかかわっている場合も多く、インフラ運用と切り離せない、標準化/自動化の進捗度か各社異なるため、一般的な適正人数を示すことは困難です。
運用コストの削減とビジネス価値創出のための戦略的/革新的なIT企画を推進するためには、IaaSだけのクラウド環境では、インフラ運用業務から解放される領域は少ないため、PaaS、SaaSなど、多種多様なクラウドサービスを活用したクラウドアーキテクチャとインフラ運用の最適化検討と計画が重要です(図5)。
次回はパブリッククラウド導入の失敗例を予定しています。
(※) 本連載に登場する企業名、人物名はすべて架空のものです。
[ 著者紹介 ]
鷲尾 圭一
デル株式会社 ITXコンサルティング部 シニアコンサルタント
2008年にデル株式会社へ入社して以来、企業のインフラ環境の仮想化やITサービスの運用最適化、M&Aに伴うIT環境の最適化支援等に従事。