工業用画像処理カメラの世界は、アナログからデジタルへの移行(=インターフェースの変化)、そしてCCDからCMOSへの移行(センサーの変化)という2つの大きなうねりにより、活躍する企業が入れ替わるという激動の時代を経験した。そしてこの世界は、今後も益々レッドオーシャンと化していくことは間違いない。標準的な機能だけを備えたカメラの世界では差別化が困難になり、規模で勝てる企業が生き残り、そこで勝負できない企業は淘汰もしくは再編され、もしくは特殊用途を備えたカスタム対応で生き残りをかけていくことになるだろう。

この市場で世界No.1の地位を築いたBasler社(ドイツ)は、今後の生き残りの戦略としてLEAN(リーン)コンセプトを唱えている。LEANとは「薄い」つまり「徹底して無駄を排除する」を意味しており、お客様に「必要な分を必要な分だけ」購入していただくということだ。

潮流を読み、製品設計で徹底的に議論

Basler社ではカメラを設計する際に、電子部品の発達によるコスト削減はもちろん徹底して行うものの、それだけにとどまらず不要な機能が存在しないか徹底して議論することで大幅なコスト削減を実現してきた。

無駄を省くとはどういうことか。例えばBasler社は、「今後はCCDを搭載する必要が無いからCMOSに限定しよう」と時代の潮流をいち早く読み、それを製品設計の際に無駄を省くという観点から議論を重ねることで、以下の図の通り2014年に更なるコスト削減を実現した。カメラプラットフォームを設計する際には、多くの異なるセンサーを搭載できるように設計するのだが、CCDを搭載しないと決断するだけで電子部品の数は圧倒的に減るのだ。

Basler社は無駄を省くことでコストを大幅に削減してきた

お客様の無駄な投資を抑える

LEANコンセプトは製品自体の低価格化にのみ当てはまるものではない。

一口にカメラを購入すると言っても、求める画質や解像度はアプリケーションによって大きく異なる。しかし実際には、自分の用途にぴったりとくる製品が存在しない場合、少しオーバースペックの製品を購入して要求を満たしている。

現在、数多くのCMOSメーカーが存在しているが、Basler社はさまざまなメーカーのCMOSセンサーを用いたカメラを次々にリリースしている。これは「お客様が徹底して無駄を省けるよう、用途にジャストフィットした製品を購入できるようにする」という考え自体を付加価値とする戦略がベースにある。現在では、ソニー社、ON Semiconductor社、Aptina社(ON Semiconductorにより買収)、CMOSIS社、e2v社といったセンサーを用いて製品ランナップ揃え、400種類を超えるにまで至っている。

Basler製カメララインアップの一部

見逃されていた「レンズ」にも着目

レンズだけ変化していなかった

さらに、Basler社は活躍の範囲をカメラからレンズに広げる戦略にも出た。これまで述べてきたように、カメラの世界は大きな2つのトレンドによりコストを下げることに成功したが、この10年以上に渡ってコストが変わらない世界がある。それがレンズであり、Basler社はそこに目をつけた。カメラが売れるたびにレンズが売れるのに、レンズの世界だけコスト体系が変わっていないところに商機があると考えた。具体的には、CCDからCMOSへのセンサートレンドが発生した際に、実はセンサーのサイズが変化したことをレンズメーカーは注目していなかった。これまでCCDといえば2/3インチ以上が主流であったが、CMOSに移行してから1/2インチ以下が広く活用されるようになった。つまり、市場に出回っているレンズは2/3インチ分の材料(ガラス)を利用して製造されているが、Basle社は1/2インチ以下に最適化されたレンズを、独自に設計して販売するようにしたのだ。これも、LEAN(リーン)コンセプトである。

レンズにも「無駄」が多かった

今回はレッドオーシャン化する市場での戦い方の例として、Basler社の戦略を紹介した。徹底した市場調査によってトレンドを先読みし、自社製品を必要な機能に限定した設計とすることで無駄を省く、そしてラインナップを多くそろえることでお客様の無駄な投資を抑えることを付加価値とする考え方、さらには自社が巻き起こすトレンドによって影響を受ける周辺機器に対しても製品の幅を広げていく、これらすべてがLEANコンセプトにつながっているのである。

次回は、今後の工業用画像処理の世界で予測される新たなトレンドについて紹介する。

著者紹介

村上慶(むらかみ けい)/株式会社リンクス 代表取締役

1996年4月、筑波大学入学後、在学中の1999年4月、オーストラリアのウロンゴン(Wollongong)大学に留学、工学部にてコンピュータ・サイエンスを学ぶ。2001年3月、筑波大学第三学群工学システム学類を卒業後、同年4月、株式会社リンクスに入社。主に自動車、航空宇宙の分野における高速フィードバック制御の開発支援ツールであるdSPACE(ディースペース、ドイツ)社製品の国内普及に従事し、国内の主要製品となる。2003年、同社取締役、2005年7月、同社代表取締役に就任。

同社代表取締役に就任後は、画像処理ソフトウエアHALCON(ハルコン、ドイツ)を国内シェアトップに成長させ、産業用カメラの世界的なリーディングカンパニーであるBasler(バスラ―、ドイツ)社と日本国内における総代理店契約を締結するなど、高度な技術レベルと高品質なサービスをバックボーンとした技術商社として確固たる地位を築く。次のビジネスの柱として2012年7月にエンベデッドシステム事業部を発足し、3S-SmartSoftware Solutions(スリーエス・スマート・ソフトウェア・ソリューションズ、ドイツ) 社の国内総代理店となる。