本連載では日本ヒューレット・パッカード(HPE)のさまざまな社員の「こぼれ話」を綴ります。今回は半導体にまつわる話を紹介します。→過去の「マシンルームとブランケット」の回はこちらを参照。

東京オリンピックのアメリカ向け映像配信を支えたサーバー

カタールでのサッカーワールドカップで日本も盛り上がりましたが、一昨年には東京でオリンピックがありました。まだ1年ちょっとしか経っていないですが、遠い昔のような気がします。個人的には接戦を制して金メダルを獲得したソフトボールと、快進撃の末に銀メダルを獲得した女子バスケットボールが記憶に残っています。

そんな東京オリンピックの映像を制作し、各国に配信していた国際放送センターでもサーバーが使われていました。アメリカでのオリンピック独占放送権を持っている放送局NBCが、映像制作と配信用のシステムとしてAVID社のソフトウェアとサーバーの組み合わせを使っていたのです。

以前は映像制作・配信には専用の機材が使われていましたが、今ではソフトウェアと一般的なサーバーの組み合わせが使われるようになってきています。AVID社はこのような取り組みの先駆けをした企業です。

ソフトウェアとサーバーが一体となった専用機材を販売するのではなく、AVID社が開発したソフトウェアを汎用的なサーバー製品に搭載して販売するのです。

映像制作・配信では、4Kから2Kへのダウンコンバートなどの高い演算能力が必要な処理を決められた放送時間までに処理することが求められます。この高い処理能力は、高速なCPUや最新のストレージなど、最新のテクノロジーを導入することで実現できます。

自社で専用の機器を設計して製造することも考えられますが、最新のテクノロジーに対応し続けるのは簡単なことではありません。それよりも、常に最新の製品を出しているサーバー専用の企業が販売しているサーバーを使った方が早く、安く実現できます。

また、コストの面からも、1つの製品を大量に製造・販売するサーバー専用の企業から購入した方が有利になります。

このような理由で、専用の機器を自社開発するのではなく、ソフトウェアとハードウェアを分離し、ハードウェアとしては一般的なサーバーを外部から調達するようになってきています。結果的に、最新テクノロジーへの迅速な対応と低コストを両立しているのです。

  • マシンルームとブランケット 第15回

専用機器から一般的なサーバーを使うという流れ

専用機器から一般的なサーバーを使うという動きは、放送局のシステムに限ったことではありません。さまざまな業界で同じような動きが出てきていますし、今後もこの動きは広がっていくと考えています。

その理由の1つが昨今の半導体を中心としたモノ不足です。半導体などを供給する企業は、供給できる量が不足した場合、大手の取引先を優先して製品を供給する傾向にあります。

このため、モノ不足の状況では生産量が多い企業の方が生産量が少ない企業よりも優先的に部材を獲得することで、安定して製品を生産することができるのです。モノ不足の時代には、自社生産で少量を製造するよりも、専用企業が大量に販売するサーバーを使用する方が有利になるのです。

もう1つの理由がグローバル化です。海外のお客さまに製品を販売した場合、現地で製品の保守体制を用意することが必要です。製品が故障した時に備えて、修理用に部品を一揃いと保守要員を現地に確保しなくてはなりません。これにはコストがかかります。

一般的なサーバーを使用していれば、サーバーの保守はサーバーを販売する企業に任せられますので、その分の保守体制は必要なくなります。これによって、海外への製品販売のハードルを下げることができます。

私の専門がサーバーなのでサーバーについての動きとして書きましたが、自社開発するよりも汎用品を活用した方が有利な理由は他の分野にも当てはまるものです。この流れはさまざまな分野で加速していくものと考えています。

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