Windowsを使う日

ある日突然、その時は来た。異動先の上司がニコニコしながら、「今日からWindowsを使ってください。Windowsでないとあなたは今後会社で仕事ができません」と言うのだ。Macを使い始めて20年、Windowsを使ったことがないわけでもないが、Windowsで仕事をしたいと思ったことは一度もない。ここ何年も感じなかった不安と恐怖が私にのしかかってきた。

新しい部署で使用することになったDELLのWindowsマシン(2.13GHz / 2GBRAM)。モニタを含めて12万円程度で購入できるらしいが、PowerPCユーザ憧れのインテルCore 2 Duoプロセッサを搭載しており、インテルMacがなかなか買えない私にとって、ある意味ちょっと嬉しかった。OSは、Windows XPを搭載している

最初に誤解のないように読者の皆様にお断りしておきたい。私は、Windowsが嫌いなわけではなく、「Mac命」と思っているわけでもない。Windowsユーザから見るとMacユーザは「変わり者」だったり「ひねくれ者」だったり、あるいは「がんこ者」のように見られがちだが、ほとんどのMacユーザは、Windowsの圧倒的な市場比率は理解しているし、昔のようにMacが特別な存在ではないこともよくわかっている。ただし、その中でMacを使い続けているユーザは、よほどの理由があるか、どこか少しだけ価値観が違うのかもしれない。私も偶然が重なったとはいえ、20年もMacを使っているのだから、Windowsユーザから見るとかなり「変な人」なのだと思う。

最初に使ったのが、Macintosh SE。プロセッサは、Motorola MC68000で、クロックスピードは8MHz、RAMの最大搭載量は4MBだった。モニタは一体型のモノクロタイプで512×342pixelしかなかった。最新のiMac17インチは、1.83GHz Intel Core 2 Duoプロセッサを搭載し、RAMは最大で2GBが搭載できる。iMacをνガンダムとすれば、SEは初代ザクみたいなものだが、当時はこれでカラーのDTPの作業をしていた

少し前まではMac vs Windowsのような時代もあったが、最近のMacユーザは、会社でWindows、自宅でMacという人が多く、インテル製のプロセッサを搭載するようになっても誰も文句を言わなくなってきた。取材で訪れた小中学校で、まったく意識せずにMacであろうがWindowsであろうが器用に使いこなしている子供の姿を見ると、お互いの存在は否定すべきものではなく、用途や目的に応じて使い分ける時代に入っていること実感する。

しかし、公私ともにMac以外はほとんど使わずに20年も生きてくるとダメである。どちらかといえば、かなり特殊な環境であったことは自分でも重々わかっているのだが、これだけ長くMacのみで仕事をしていると、Macはすでに体の一部になっており、他のOSで日々の仕事をするというのはかなり無理がある。もはや、私などは「オールドタイプ」を通り越して、すでに「化石」に近い存在なのかもしれない。読者の皆様にはこのような状況をご理解の上、今後の話を読んでいただければ幸いである。

Macユーザから見た驚きのWindowsの性能

久々に触れたWindowsマシンは、起動がとても速い。電源ボタンを押して43秒ぐらいでデスクトップが表示される。私がこれまで会社で使用していたPower Mac G5(2GHz Dual / 4GBRAM)は、デスクトップが完全に表示されるまでに42秒ぐらい、自宅で使用しているiBook G4(1.33GHz / 1.5GBRAM)は、デスクトップが完全に表示されるまでに90秒ぐらいかかる。ここ数年、Windowsマシンに触れる機会がほとんどなかったので、Windowsマシンの起動って速いんだなと感心した。

しかし、本当の驚きは、アプリケーションの起動の速さである。特にOffice関連製品の起動の速さはMacユーザからしてみるとあり得ない速度だ。MS Wordは2~3秒で起動する。「OSの起動時にOfficeも裏で立ち上がっているんじゃないか?」と疑いを抱くほど一瞬である。また、動作もキビキビしていて気持ちがよい。とても快適だ。これなら、メールやWebブラウザ、ワープロ、表計算ソフトなどを中心に使用しているビジネス系のユーザは、あえてMacを使う必要はないだろう。MacでOffice製品を起動するとマシンのスペックや使用環境にもよるが、起動にかなり時間がかかる場合がある。この速さには正直なところ目からウロコが落ちた感じだ。私は、世間知らずのMacユーザだったのかと、少しガックリときた。

少し前まで使用していたPower Mac G5(2GHz Dual / 4GBRAM)。デュアルプロセッサで、かなり速かったが、異動とともにさよならとなった

ちょっと精神的ストレスが……

さて、Windowsをメインで使い始めて一カ月、胃がシクシクと痛くなる日が続くようになってきた。すべての原因がWindowsではないが、かなりの比重を占めていることは自分でもわかった。なんとか慣れよう慣れようと頑張ってきたが、どうも自分が考えていた以上に精神的ストレスが激しかったようだ。

原因はいくつかあるが、まず、フォントの表示とキーボード配置の違いは致命的だった。Mac OS Xのフォント表示は、標準でスムージングがかかっているが、私が使用しているXPはジャギーだらけで非常に見づらい。また、Mac特有のコマンドキーがないため、文書を書いたり校正している際に入力ミスが多くなり、誤植を多数出すようになってしまった。

また、ささいなことではあるが、アプリケーションの操作メニューがウィンドウにあるため、これも困ってしまった。ウィンドウを閉じたつもりが、アプリケーションが終了してしまうのだ(なんでウィンドウにメニューバーが付いているんだ?)。この他にもMac OS Xには検索するための「Spotlight」やデスクトップをボタン一つで表示したりウィンドウを一覧表示できる「Expose」という機能を備えているが、それに似たものがなかったりと辛い場面が多かった。これら、もろもろが重なり、従来と同じ作業をするのに倍以上時間がかかるようになってしまい、それが日に日にストレスとしてたまったのかもしれない。

Mac OS XでWebブラウザのSafariで表示したものとその拡大画像。右の画像をクリックしていただくと原寸で表示される。フォントにジャギーがないのがわかる

Windows XPでInternet Explorerで表示したもの。これだけ画面を見た感じがMac OS Xとは異なる。Vistaは文字表示が美しいらしいが、会社ではまだ使用できない

それでも「心機一転」ということで頑張っていたのだが、お風呂でシャンプーをしていた時に髪の毛の量がだいぶ減っていることに気がついた。明らかに一カ月前より少ない。いや、確かにここ数年減り気味だったのだが、最近電車に乗っている時にエアコンの風がスースー感じるようになっていたし、久々に会ったライターが驚いて私の頭を触っていたのは、どうやら髪の毛の量が減ったのが原因だったようだ。これは胃の痛みよりもかなり深刻な事態である。やはり、私のようなオールドタイプの人間が新しい環境に慣れるのは努力だけでは無理なのか……情けない。