堀 ブログって、普段は出来上がった記事だけが読者に読まれるものですが、それが作り出されるプロセスも大事だと思うのです。佐々木さんはブログを書く時、どのようにネタを蓄積したり、執筆の準備をしたりしていますか?
佐々木 私は普段からEvernoteに心理学ネタとライフハックネタを収集していて、まずはそれをほぼ全部ざっと眺めてブログに書き出すようにしています。それと、もう1つのルート、01~31というノートブックがあります。その中の「30」には、過去の4月30日に書いたブログの記事とそれへの質問や批判などが集めてあります。今日が30日なら、その「30」のノートブックを開くと、そこに「前のエントリに書けなかったこと」の続きという形で、ネタを見つけることができるわけです。
堀 それはすごい。日付によって連続した膨大な知識に区切りが入れられてるんですね。僕はGoogle Readerでスターを付けた記事のうち、「これはあとで使う」ものはSend To機能(英語版のみ)でEvernoteに送ってしまい、そこですぐに「なぜこれを追加したか」という理由を1行くらいで書き込んでおきます。面白い記事をただクリップしても、その理由が書かれていないとあとで思い出せないですし、その1行がブログの記事を生み出すことは多いですね。
日付区切りであれ、ネタ用ノートブックを作る場合であれ、Evernoteはノートにいつでも情報を追記できる点が良いですね。情報がある時点で化石化することなく、いつでもいきいきしています。
佐々木 追記が簡単にできることを当たり前のように感じてましたが、確かに大事な機能ですね。これができるからこそ、記事にTwitterからの感想だとか、はてなブックマークのコメントだとかを付けることもできるわけですし。そのままその中に新しい記事を追加してしまうこともよくあります。
堀 ノートの置き場所をわかりやすくするためにノートブックを整理しなければと考える人も多いと思いますが、実際は佐々木さんのように1から31とか、ネタとは無関係のノート構造にしておいても大丈夫だと思います。タグ検索で話題を一瞬で集めることができますので、情報を特定の構造で拘束することなしに緩やかに整理できますね。
佐々木 確かにそうです。実際、私もそうしています。「30」というノートブックにはブログネタも、その日にやることも、その日に見るべき資料も投げ込んでありますが、「ブログネタ」や「朝見る資料」というタグを使えば簡単に絞り込めます。それに、「30」の中の「やること」は「未完了ToDo」を属性で指定してやれば同じことができます。
堀 そうそう。この「情報を気軽に入れて」「整理とはなしに整理できて」「すぐに利用できる」というのがEvernoteをブログ、調査、論文などの知的生産に使うメリットだと思うんです。最近ではクリッピングする気軽さで科学論文の図を入れて、気軽に追記して、気軽にそれを引用して執筆しています。Evernoteだとフットワークが軽くなるんです。
佐々木 便利だから習慣的にやっている情報の配置が、自動的に情報整理となってくれるんですよね。だから、かなり前に収集した情報でも再利用できるし、過去に書き込んだアイデアなども容易に再活用できる。過去に書いた断片的なメモやWebクリップと邂逅させてくれるツールは初めてです。
堀 ブログ『ネタフル』の著者であるコグレマサトさんもある場所で書かれていたのですが、「呼吸するようにブログを書く」というくらいに情報発信をルーチン化してしまうと、さらに質の良い情報に出会えるから不思議です。Evernote時代の知的生産は「結論が出るまで熟成する」のではなく、「気軽に入力、気軽に発信」なのですね。Evernoteを情報ツールとして使いこなせていないと感じている人は、「情報の流れを阻害していないか」というチェックをしてみるとよいでしょう。
編集後記(堀 正岳)
情報ツールとしてEvernoteを使いこなす時のポイントは3つ。気軽に入力・追記して常に情報の流れを生み出すこと。ブログであれ、仕事のアイデア出しの場であれ、それらを出力するための場を持つこと。そして、過去の情報を整理することに集中するのではなく、タグ付けなどで緩やかにまとめることに慣れること、です。
佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト
「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。
堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者
1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。ブログ「Lifehacking.jp」を主催