堀 前回、30日でもブログを続けると大きな変化がおこるという話をしましたけれども、これはなにもブログだけではなくて、生活や趣味の全般でも当てはまりますよね。
佐々木 ブログだけではなく、生活全般で、継続することには意味があるということですね。ダイエットでも、家計簿でも、スポーツでも、節約でも。
堀 僕はそんなに歯を食いしばって「継続!継続!」と気にするのはあまり健康的ではない気がしているのですが、それでも回数として1年に365回向き合う「小さな行動」があると、きっと人生がかわるということを繰り返しいろんなところで書いています。
佐々木 365回向き合う活動というのは、1年間続けるということですね?
堀 まずはそう思ってスタートするのがわかりやすいでしょうか。以前、「365日連続で行う活動を決めよう」というProject 365という話題について記事を書いたことがあるのですが、これはたとえば「毎日1枚写真をとる」とか「毎日すくなくとも1回『ありがとう』と口にする」というように、1回1回はささいな行動でも、積み上げることでとても大きな変化が生まれる行動を1つだけ決めてみようという話でした。始めてみると、1年続かなくても大きな変化が生まれました。
毎日実践するのが苦労ではなくても、積み上げてみると大きな変化を起こせる行動に注目する |
佐々木 堀さんはどんなことを続けたのでしょうか?
堀 たとえば「写真を撮る」という活動を実際にやってみたのですが、これだけでも驚きの連続だったのです。毎日同じ道を通勤しているだけでは写真を撮るネタに困ってしまうので、いろんな知らない場所に散歩に行ったり、今まで目を向けなかったものに注目することが多くなったのです。つまり「写真を撮る」という一見些細な行動が大きな変化を生み出してくれたといえます。それが意識できた時点で、継続そのものは気にならなくなったので、やめてしまいましたが(笑)。
佐々木 アントニオ・ダマシオという脳科学者が、面白いことを言っています。朝起きたときの「私」が、夜寝るときの「私」と同一人物であると感じさせるものは何かと問いただし、脳内には常に再生している一連のパルス活動があるはずと主張しました。それを「中核自己」といったのですが、堀さんの方法は、「中核自己」に「写真を必ず撮る」という方向性を与えることで、「中核自己」自体を変化させているようですね。
堀 む、難しいですが、なんとなく分かります。実際、これまで自分の中になかった「構図」「光」「写真でストーリーを語る」という考え方を、理屈じゃなくて、行動の側から心に刻みつけたという感じでした。
佐々木 なぜ「中核自己」のような概念を持ちだしたかと言いますと、朝起きたときと、昼ご飯を食べるときと、夜寝るときの自己同一性を保つだけですと、結局それぞれの「中核自己」は互いのことを知らないまま、一種の「記憶喪失」みたいになってしまうんです。それぞれに「同一の行動」をとらせるようにすることで、新しいテーマについても自己同一性みたいなものが生まれてくると思うんです。同一テーマについて繰り返し書かれているブログの個性は洗練されていくように感じられます。
堀 ふつう僕らは、自分の人生は多彩で複雑なものだと思いたいわけですけど、あえて「私は毎日ブログを書いている人です」「私は毎日5ページ本を読んでいる人です」といった簡単化した同一性を与えると、なんだか混乱した人生に指向性がみえてくるわけですね。
僕は必ずしも毎日365日続けなくても「365回向き合う」というだけでも大丈夫だと思っているんです。たとえば、「平均で毎日1枚写真をとっている」と考えれば、週末に10枚撮影して追いついてもかまわない。とにかく、「1日1枚のペースだけは下回らない」というペースづくりが、ほどよい緊張感を与えてくれるのではないかと。
小さな行動を毎日繰り返すことで人生全体に波紋が広がるようにしていくのが365日プロジェクトの考え方 |
佐々木 私が今毎日やっていることと言えば、いかにも私事で恐縮ですが、娘が生まれて以来、娘の日記をつけるようになりました。本業が科学者でもないクセに、科学者っぽい気質がありまして、連続的な変化の中の、認識しがたいポイントを見落としたくないという思いが強いんですね。まあ娘のことだからかもしれません。ただ私は、どんな子供でもいきなり「喃語」をしゃべり出すはずがないと疑っていますから、その予兆のようなものはすべて記録しておきたいのです。
堀 僕も娘日記はモレスキン手帳につけていますが、これは毎日つけないとあっという間に「毎日」が「月日」に、「年月」になってしまうので要注意ですね。それに対して写真、読書、運動などは必ずしも毎日でなくても「ため」が効くので、この違いを意識して、常に向き合っている行動、積み上げて力になる行動を2010年にもうひとつ、ふたつ作ってみたいですね。
堀正岳(対談後記)
たとえば何気ない通勤の徒歩時間も、毎日駅までの行き帰りに30分を使っているなら、分速120歩で3600歩。平日5日間、52週間これを続けるなら約100万歩になります。 「小さな行動を積み上げる」というのは、その行動を起こしているときにはほとんど「やる気」や「努力」を必要としないのに、続けてみたり、回数を繰り返してみるととんでもない数字や結果にたどりつけるものを指しています。
たとえば私のお気に入り、「ありがとうを毎日少なくとも1回言う」を続けてみてください。どんな自己啓発書を読んでも生まれないような変化が内側から生まれてきて驚くと思います。
ぜひ新しい年を、こうした「大きくて小さな一歩」で歩み始めてみてください。
佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト
「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。
堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者
1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。ブログ「Lifehacking.jp」を主催