堀 先日Googleから「電子メールにかわる」かもしれないコミュニケーションツールとしてGoogle Waveが発表されました。僕も佐々木さんも運良く知り合った方から招待していただけましたので、今回はGoogle Waveとはなにか? それはどのようにコミュニケーションを変えるものなのか? についてみていきたいと思います。
佐々木 まだGoogle Waveは少数の人しか利用できないベータ版のサービスですので、堀さんから見てGoogle Waveとはどういったものなのか、電子メールとはどう違うのかを解説していただけますか?
堀 まず触ってみて思ったのは、「チャットにとても似ているな」という点です。Google WaveはSkypeやメッセンジャーでできるような文字チャットに、画像やマルチメディア、そしてガジェットを埋め込めるようにしたものと言えます。しかし背景となっている技術は電子メールよりもはるかにリアルタイム・ウェブ時代にあわせた設計がされていて、複数の人がリアルタイムに同時に書き込んだりできるのが特徴になっています。実際に触ってみて、佐々木さんはどういう印象をもたれましたか?
佐々木 第一印象は電子メールとチャットが重なったもののように感じたのですが、ちょっと誤解を招きそうな言い方ですね。これまでで一番近いと思ったのは、Google Docsなどのスプレッドシートを同時に完成させていく印象でしょうか。その文書作成ツール、といった感じです。しかし思ったのですが、電子メールでも画像や動画は送ることができるのにGoogle Waveに特徴的なメリットってなんでしょう?
堀 電子メールでも文中にそのまま図や動画を挿入することはできることはできるのですが、相手のメールソフトが対応していない場合などを想定するとなかなか使えない機能ですね。Google Waveだと、文中で画像や動画をそのまま入れることもできますし、Google Mapのガジェットや、Google Waveに参加している人で意見をまとめるための投票ガジェットを組み込むこともできたりします。見せたいものを、別アプリを立ち上げずにGoogle Waveの中で見られるというメリットがありますね。
佐々木 でも、「電子メールを置き換える」と言われていた割には、Google Waveはまったく違ったツールにみえるのですがどうでしょう?
堀 「電子メール」と対比するから誤解が広がっているのだと思いますが、Google Wave的なコミュニケーションは「会話」に近いという点が違うのだと思います。メールだったらいちいち「書き出し」から書き始めて「よろしくお願いします」で締めくくるような形式が要求されてしまいますが、Google Waveはこうしたやりとりの根本を変えようとしているんですね。
佐々木 なるほど。たしかに電子メールはどうしても、手紙の書式に縛られがちになりますね。一部の電子メールソフトでは切手がアイコンになっていたりして、手紙を連想させやすいツールだからかもしれません。では、チャットと比較した場合にはどうなのでしょう? 最近では、Skypeなども高機能になってきていますが。
堀 Skypeも非常に便利なのですが、Google Waveだと参加者がリアルタイムに同時に書き込んで、その様子が相手にもリアルタイムで反映されるのが大きな違いです。チャットだと相手が書き込んでいる間「書き込み中…」と表示されている間待っていることが多くありますが、Google Waveだとそれがありません。つまり、複数の人で同時に1つの「会話」という文章を協力して作り上げていると言ってもいいかもしれません。
だからといって、時間差で返事を書くのでも大丈夫というところがチャット的でもあります。相手が忙しい場合は返事が数分後になるかもしれませんが、そうしてお互いの隙間時間を利用した非同期対話で仕事が進められるのはいいですよね。
実は今回の対談もGoogle Waveで書いていたのですが、いままでにない文章の書き方でした。これからもしばらく続けてみましょうか?
佐々木 そうですね。文章をコラボレートして作っていく目的に、このツールはぴったり合っている、という印象を持ちます。将来的には、書籍原稿を作っていくために、編集と著者がGoogle Waveのようなツールを使って、企画、構成、執筆、編集までこれ一つでできていってしまう気がします。
堀 では次回も波に乗ってやってみましょう!
編集後記
Google Waveのアカウントを持っている人はまだ少数派だと思いますが、既存の通信手段でもGoogle Waveからヒントを得て、今のうちからGoogle Wave的なコミュニケーションを取り入れることが可能です。たとえば今日から使えるGoogle Wave的なコミュニケーションには、次のようなものがあります。
・メールを短くすること
メールを送る場合、できるだけ最初の3行で用件の概要が伝わるようにして「形式的な冗長さ」よりも「素早く伝わる」文章にできないか挑戦してみましょう。メールというコミュニケーションには、大きな無駄部分があるということを意識して、これを徹底的に省くようにしましょう。
・形式ではなくて、内容で勝負の空気を作ってゆく
メールも形式的になりすぎると、前略が入っていない、体裁が整っていない、などと細かいことが気になり出す人がいます。でもこれは手紙の体裁をメールに持ち込んでいるもので、あまり気にしすぎていては、メールに使われている状態になってしまいます。
・メール、チャット、電話、ミーティングをそれぞれ効果的に利用します
たとえば誤解を生みそうな、長い説明が必要になる要件はミーティングや電話という代替手段で伝えられないか考えましょう。メールばかりが通信手段ではありません。そのメッセージに最適な媒体を選ぶことで対話がより素早く行われることに重点をおきましょう。
コミュニケーションは「手紙」のような形から、より「会話」のような形になろうとしています。そしてこの変化は私たちが文章を書く方法、相談を行う方法、交渉事のルールなど、すべてを変えようとしています。Googleからやってくる次の大波を待つ間、メッセージを最適な方法で伝える「Google Wave的なコミュニケーション」の練習をしてみましょう。
佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト
「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。
堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者
1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。「ブログ Lifehacking.jp 」を主催