外資系企業のトップ、と聞いて、読者の皆さんはどんな人物を想像するだろうか。本社から派遣されてきた日本語をひとことも話さない外国人エリート、ヘッドハンティングを受けながら転職を重ねてきたMBAホルダー、年功序列型の国内企業をきらい、実力と結果でのし上がっていく野心家……実際、海外の有名大学院のMBAを取得するなど、華やかな経歴に彩られている人は多い。だが、本国とは文化も習慣も大きく異なる日本市場で指揮を執る人物に要求されるのはそれだけではない。本連載では、本社と日本市場のあいだの"調整役"を請け負う彼らに、キャリアを積み重ねるために必要なスキル、文化の違う職場をまとめるためのリーダーシップおよびマネジメントについて伺っていこうと思う。
というわけで、第1回目に登場していただくのは、ドイツ・ダルムシュタットに本社を置くグローバルIT 企業Software AG、アジアパシフィック&ジャパンのシニア・バイス・プレジデントであり、日本法人 ソフトウェア・エー・ジーで代表取締役を務めるコリン・ブルックス(Colin Brookes)氏。約2年半のオーストラリアおよびアジア地域でのカントリーマネージャー経験を経て、約1年半前に来日し、今年3月に日本法人のトップに就任した。
東京・虎ノ門のソフトウェア・エー・ジーのオフィスにて執務中のコリン・ブルックス氏。 尊敬するリーダー像として、英プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドFC監督を務めるアレックス・ファーガソン氏の名を挙げた。「個々の選手の最も素晴らしいところを延ばす手腕がすばらしい。チームを作るということの根本を理解し、個人が”チーム“を超えることを請け負う人物」と賛辞を贈る |
ブルックス氏はその容姿から想像できるとおり、グローバルIT企業に典型的な"イマドキのエリート"である。MBAホルダーで、複数の大企業でのマネジメント経験があり、かつ、スタートアップ企業で経営に参画したこともある。
数カ国でビジネス経験があるせいか、ブルックス氏は日本法人の従業員や日本の顧客について話すとき、非常に慎重に言葉を選ぶ。トップが不用意に発したひとことが、ビジネスにどんな悪影響を及ぼすかを知り抜いているからだろう。だが、それでもあえて日本市場の特徴について、思うところを聞いてみた。「日本企業では意思決定までのサイクルがとても長く、その間に多くの打ち合わせが持たれる。多くの企業が最新技術を採用する最初の企業になりたがらず、その他の企業のテスト結果とその効果が出るまで待つことを好んでいるようだ。これが悪いといっているわけではなく欧米でも考慮される必要がある」
もっともブルックス氏は、「どちらが良い/悪いという問題ではない」と断言する。日本企業のように最初の意思決定を慎重にすることで、その後のビジネスがスムースに運ぶというケースが実際に多々あるからだ。「革新的であること、人と違った生き方をすること、欧米の企業文化の根底にはそういったチャレンジを奨励する向きがたしかにある。だからといって、それを日本市場にそのまま押しつけるのは良くない。日本市場の進出に失敗した企業は数多くあるが、彼らは自分たちの価値観に固執した部分が大きい。それぞれの"違い"を理解する努力を怠らず、互いに文化を寄せ合うこと - ユニバーサルソリューションの実現こそが、グローバル企業で働く上でもっとも重要だと思う」
だが、文化も背景も違う国で、リーダーとしてビジネスを指揮するのは相当大変なはず。ブルックス氏にそう振ると「良いマネージャとは自分のチームからベストなもの作り出す方法を知っている人。良いリーダーとは意思決定によってリードできる何かを示せる人。多くの人が、すべての人が満足するソリューションを見つけようとして決定が遅れる。残念ながら、その決定は時間がかかりすぎて誰も満足させられない。良いリーダーは状況を判断し、確固としたアクションを取る。また一方でその決定が間違いだったら、それを認めることができ、再び臨むことができる人だ」
景気が上向きつつある、という報道も一部あるが、日本企業のIT投資はまだ冷え込んだままだ。きびしい条件下でビジネスの舵取りを行わざるを得ないブルックス氏だが、今日のこの経済状況で組織の目標要求を管理するのは難しい。しかし最近は少し上向きの傾向にあるので、2010年を楽しみにしていると言った。そのベースになるのはやはり"ユニバーサルソリューション" - 異国の地でプレーする外国人リーダーにとって、つねに自分自身に言い聞かせておくべきキーワードなのかもしれない。。
チームを育てる中で特に難しいのは、「決定は間違いだった」と言えるようにしてあげること。失敗を許すことで、経験する機会を与え、将来のためにそこから学んでもらいたいのです(ブルックス氏) |
(イラスト ひのみえ)
プロフィール
コリン・ブルックス Colin Brookes
ソフトウェア・エー・ジー 代表取締役。英国・マンチェスター出身の45歳。英Bolton大学でMBAを取得後、1996年にCAに入社、おもに営業部門でキャリアを積む。1996年、英国北エリアのCA 営業部門のリージョナルバイスプレジデントに就任、2001年まで同職を務める。その後、スタートアップ企業の経営にシニアバイスプレジデントとして参画し、2年後、ドキュメントプロセス自動化を主事業とするFormscape Software Ltd (UK)にエグゼクティブディレクターとして入社する。マネジメントとして参画していたFormscape時代には、買収や、会社が突然競合他社に売却されるという経験をする。2005年、オーストラリアで休暇中にCA時代の上司から誘われ、Software AGに入社。彼の最初の役職は英国配下のオーストラリアのカントリー・マネジャーで、アジア地域も担当した。2008年の組織改正でアジアパシフィック&ジャパンのシニア・バイス・プレジデント、兼、日本法人の代表取締役に昇進した。