日本初となる、民間の手による衛星打ち上げ用ロケット発射場の建設が進む和歌山県串本町で、2019年8月25日、「宇宙シンポジウム in 串本」が開催された。

発射場の建設を進めるロケット会社「スペースワン」の太田信一郎社長をはじめ、東京大学の中須賀真一教授、宇宙ベンチャー企業「ALE」の岡島礼奈社長らが登壇。600人を超える来場者に向けて、超小型のロケットや衛星がもつ可能性から、ロケットが和歌山にもたらす価値などについて議論が交わされた。

2019年4月から発射場の建設も本格化。新たな時代に向けて、本州最南端の町は熱い盛り上がりをみせているが、一方で課題もある。

本連載では、同シンポジウムの様子をお届けするとともに、串本町にロケット発射場が造られることになった背景や経緯、そして和歌山県や串本町、宇宙関係者らがロケットにかける期待、そして課題などについてみていきたい。

  • 宇宙シンポジウム in 串本

    宇宙シンポジウム in 串本の様子。日本初となる民間の衛星打ち上げ用ロケット発射場の実現に向け、熱い議論が交わされた

宇宙シンポジウム in 串本

最初に挨拶に立った仁坂吉伸・和歌山県知事は、ロケット、衛星、そして宇宙の話が聞ける機会を楽しみにしていたと述べたうえで、スペースワンの発射場がこの地に造られることが決まるまでには、土地の所有者、漁業関係者、そして串本町の多大な協力があったとし、感謝を述べた。

そして、超小型ロケットの打ち上げビジネスは、世界的に激烈な技術開発、競争が始まっているとし、スペースワンの活躍に期待。一方、県としても、観光客の誘致やおもてなしなどに、いかにシンクロさせていくかが大事だとした。

続いて登壇した田嶋勝正・串本町長は、いまから3年前、ロケット発射場を誘致するための活動を始めたころのエピソードを紹介。和歌山県から「串本町はロケット発射場の建設に適していることから、誘致をしないか」と打診があり、「これからは宇宙の時代だ」と考え、また地域の振興のためにも千載一遇のチャンスだとの想いから、名乗りを上げたと語った。

しかし、射場から半径1kmの範囲に住んでいる15人の住民に立ち退いてもらう必要や、その土地を買収する必要もあったほか、串本町や、発射場が造られる同町田原の住民、漁業関係者などにも賛同してもらう必要もあったことから、多くの苦労があったという。民間企業によるプロジェクトである以上、一人でも賛同を得られなければ誘致できないという状況のなか、すべての人から賛同を得ることができたとし、協力への感謝を述べた。

そして、ロケット事業や衛星事業が地域にとって有益なものになるのか、そして子どもたちにとって有益なものになるのかに期待しているとし、個人的にも宇宙やロケットについて勉強していきたいと抱負を語った。

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    仁坂吉伸・和歌山県知事

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    田嶋勝正・串本町長

東京大学大学院 中須賀真一 教授

基調講演では、まず東京大学大学院工学系研究科 教授(航空宇宙工学)の中須賀真一氏が登壇。中須賀氏は学生衛星、そして超小型衛星のパイオニアとして知られ、これまでに数多くの実績を持つ。大阪出身ということもあって、ときどき大阪弁やジョークを交えながら語り、会場を和ませた。

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    中須賀真一・東京大学大学院工学系研究科 教授(航空宇宙工学)

中須賀氏が超小型衛星のパイオニアと呼ばれるようになったきっかけは、2003年に、学生らと開発した超小型衛星「XI-IV」が宇宙を飛んだことだった。XI-IVは、一片が10cmの立方体をした、質量1kgの「キューブサット」と呼ばれる超小型衛星で、その小ささもさることながら、部品に秋葉原で買ってきた市販の民生品を使用していることも大きな特徴である。

それまで衛星というと、大きくて高価、そして造るのに時間がかかるのが当たり前だった。しかしXI-IVは、性能こそ大きな衛星にはかなわないものの、開発期間は2年、開発費はわずか300万円だった。これほど小さな、そして市販品で作った衛星が宇宙で正常に稼働したのは、世界初のことだった。

これを機に、中須賀氏らは小さな衛星の研究・開発を本格化し、これまで9機の衛星を打ち上げ、5機が開発を終え、打ち上げを待っている状態にある。また、中須賀氏の研究室にいた学生が、卒業後などに小型衛星のベンチャーを立ち上げるなどし、中須賀氏らがつちかった技術が、ビジネスや、ひいては国内外の社会に貢献されつつある。

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    2003年に打ち上げられた、中須賀氏らが開発した超小型衛星「XI-IV」の紹介

一方でかねてより、小型・超小型衛星の打ち上げ手段が大きく限られているという問題があった。現在、こうした小さな衛星の打ち上げ手段としては、「相乗り」か「まとめ打ち」くらいしかない。相乗りとは、大きなロケットで大きな衛星を打ち上げる際に、余ったスペースや打ち上げ能力についでに載せてもらうというもので、まとめ打ちとは、複数の企業や大学などの小型・超小型衛星を、まとめて一気に打ち上げるというものである。

ただ、どちらの方法も、打ち上げる時期や投入できる軌道の自由度がなく、大学などによっては研究機会の喪失に、企業にとってはビジネスチャンスの喪失につながっている。このことから、小さな衛星を好きな時期、好きな(その衛星にとって最適な)軌道に打ち上げることができる超小型ロケットが必要だと訴えた。

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    中須賀氏による、小さなロケットが必要な理由

また現在、中須賀氏らが開発した「Nano-JASMINE」という衛星が、衛星自体はすでに完成しているものの、打ち上げを発注していた海外のロケット会社が倒産し、打ち上げできない状態に陥っていることもあり、日本の企業が、日本の地で超小型ロケットの打ち上げサービスを展開することに大きな期待を持っているとも語られた。

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    超小型衛星の数の増加を示したグラフ

人工流れ星を作る宇宙ベンチャーALE 岡島礼奈社長

続いて登壇したのは、宇宙ベンチャー企業「ALE(エール)」の岡島礼奈社長。同社は2011年に設立され、小型衛星から小さな球を打ち出し、大気圏に再突入させて人工の流れ星を作り出す、ユニークなビジネスの展開を目指している。

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    ALE代表取締役社長 / CEOの岡島礼奈氏

この人工流れ星は、イベントで流すなどのエンターテイメント用途での活躍を見込んでいるほか、サイエンス面でも意義があるという。流れ星がどのように流れるかということは、気象と密接に関係しており、また宇宙船などの、大気圏に再突入して中間圏を通過する多くの人工物の研究にもつながりがある。「いつ、どこで、どのような物質か」がわかっている状態で流れ星を流すことは、流れ星や宇宙機などの研究に役立つため、世界中の天文学者から多くの支持を受けているという。

岡島氏はエンターテイメントもサイエンスも両方大事だとし、「科学を社会につなぎ、宇宙を文化圏にする」をモットーに、事業を通じて私たちの身近な生活を豊かにしていきたいと力説。さらに「宇宙を平和利用してほしい」というメッセージも打ち出したいとし、「民間だからこそできることだと思う」と熱い想いを語った。

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    ALEの紹介

岡島氏はまた、「私たちは(スペースワンのような)小さなロケットを世界で一番待ち望んでいる」とし、中須賀氏と同じくスペースワンと串本の発射場への期待も語った。

同社の最初の衛星は、今年初めに「イプシロン」ロケット4号機で打ち上げられたが、他の衛星との相乗りで打ち上げられたため、本当に望んでいた軌道には投入できなかったという。また、衛星の2号機の打ち上げも予定しており、すでにロケット会社に打ち上げ費の95%を支払い済みであるものの、最近になって急に打ち上げを延期すると通達されたとする。衛星側はお客さんであるにもかかわらず、ロケット側の立場が強く、打ち上げ時期が変わることに文句を言えない状況だという。

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    ALEが開発中の人工流れ星の紹介

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    人工流れ星は、エンタメだけでなく、科学や工学の研究にも貢献する

そこにおいて、自身としても小さな衛星を好きな時期、好きな軌道に打ち上げられるロケットを、そして日本の企業がそれを造ることを心から待ち望んでいると語った。

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  • ALEの今後のスケジュール

(次回に続く)