明らかになった快舟ロケットの姿

快舟ロケットの謎に包まれたままだったが、2014年11月21日、中国はふたたび酒泉衛星発射センターから快舟ロケットを打ち上げたことで、大きな進展があった。この打ち上げ後、ついにCASICはロケットの写真を公開したのである。

快舟ロケット (C)CASIC

快舟ロケットの打ち上げ (C)CASIC

組み立て中の快舟ロケット (C)CASIC

全体の形は、以前公開されたCGの画像とほとんど同じで、カラーリングもほぼ同じであった。また、固体燃料ロケットであることが完全に裏付けられた。また青いラインが各段の分かれ目を表しているとすれば、4段式のロケットということになる。

そしてこれらの写真から、ロケットの寸法もある程度絞り込める。快舟ロケットは中央で直径が変化しており、下段の太い側の直径を1.0とすると、上段はおおよそ0.8ほどの比率だ。続いて、上段の部品と、技術者らしき人物が一緒に写っている写真から、この人物が中国人の平均身長である約1.7mとすると、上段の直径は約1.1mと推定できる。つまり下段は約1.4mということになる。

そして海外の研究機関などの調査によれば、東風21の直径は約1.4mであるという。一方、東風31の直径は2.0mとされる。先ほど推定した快舟ロケットの直径はとても不正確な数字だが、誤差を考えても2.0mはないだろう。したがって、東風21を基にしたロケットである可能性が高く、なおかつ同じCASICが製造しているということで筋も通る。

消えたロケットの最終段

快舟ロケットと快舟一号はもうひとつ、大きな謎を残している。それはロケットの最終段(最上段)が軌道上に確認されていないということだ。

通常、ロケットの打ち上げでは、人工衛星と、その衛星を軌道まで運んだロケットの最終段の少なくとも2つが軌道に投入されるが、米軍のレーダーは快舟一号のみ、つまり1つしか捕捉していない。これは2014年の2号機の打ち上げでも同じであった。

その理由は、他の謎に比べればあっさりと解決した。快舟一号はロケットの最終段と衛星を結合し、電子機器やスラスターなどを共有した機体であるということが、快舟一号の打ち上げ直後に、メディアの報道や論文などから明らかになったからだ。

前述したように、快舟一号は定期的に軌道高度を押し上げるため、また災害が発生した際などの緊急時に軌道を変更するために、ある程度強力なスラスターを持っている。そしておそらくそのスラスターは打ち上げ時、最終的に軌道速度を出すための噴射でも使われたはずだ。似たような性能のスラスターをロケットと衛星で別々に持つよりも、統合した方が良いというのは合理的ではある。またコンピュータも同様に、高性能化、汎用化が進んだ現在では、ロケットと衛星で別々に持つよりも、統合した方が合理的だ。またロケットと衛星の分離機構も不要になる。これにより全体の軽量化や、信頼性の向上に役立つ。

なお、2014年11月21日に打ち上げられた快舟二号が、快舟一号と同型機であるのか否かは不明だ。

残された謎

こうして、快舟ロケットと、快舟一号、二号の謎は、おぼろげながらも明かされつつある。だが、まだ謎は多い。

例えばそのひとつは、CASICが発表した「飛天一号」というロケットとの関係だ。飛天一号は、2014年11月11日から16日にかけて開催された、第10回中国航空宇宙博覧会(珠海航空ショー)で披露された。小型の固体ロケットで、災害時などに即座に地上を観測する衛星や、通信を中継する衛星を打ち上げて、その対応を支援することを目的としているという。

同ショーでは飛天一号の模型も展示され、その姿は快舟ロケットとよく似ている。また大型トレーラーの荷台に搭載し、そのまま立てて打ち上げられるとも説明された。

目的やロケットの姿かたちは同じではあったが、一方で異なる点もある。飛天一号は電子光学センサを積んだ衛星や合成開口レーダーを積んだ衛星、あるいは通信機器を積んだ衛星など、異なる姿かたちの衛星を打ち上げられると説明されていたのだ。実際に飛天一号の模型の隣には、人工衛星の模型も展示されていた。前述のように、快舟ロケットと衛星の快舟は一体化しているとされており、通常の形をした人工衛星を打ち上げることは考えられていないはずなのだ。ひとつの可能性としては、快舟ロケットとは最上段のみが異なる、つまり快舟ロケットを通常の衛星も打ち上げられるようにした機体が飛天一号であるということが考えられる。

では、快舟ロケットと飛天一号は、最上段以外は共通しているのかという問いについては、飛天一号の寸法は公開されておらず、また今のところ小さな模型しか手がかりがないため、断定するのは難しい。

第10回珠海航空ショーで公開された飛天一号の模型 (C)CASIC

また、もうひとつの謎は、尾部の格子状フィンの存在だ。通常ロケットのフィン(小さな尾翼)というと、飛行機の翼のような形のものが使われるが、快舟ロケットには(飛天一号も)、格子状、つまり隙間の開いた板のようなフィンが取り付けられているのだ。こうしたフィンはソヴィエト・ロシアのミサイルやロケットなどに見ることができ、おそらくは参考にしたか、設計などを手に入れて開発したと思われる。

快舟ロケットに格子状フィンが付いていることが分かったのは、2014年に写真が公開されたときのことだが、実はそれ以前の2014年初頭に、中国のkktt氏という人物が運営するblogの記事で、その存在が指摘されていた。その記事では、快舟ロケットについて詳細な考察がなされており、その中のひとつとして「快舟ロケットは格子状フィンを持っている」と紹介されていた。kktt氏の素性は不明だが、中国の宇宙開発やミサイルに詳しい人物であることは間違いない。

その記事ではまた、快舟ロケットの輸送や打ち上げに使われたTELは、中国人民解放軍陸軍も使用しているWS2500と呼ばれるトラックではないかということや、KT-409と呼ばれている、衛星攻撃兵器と関連があることなどが指摘された。

ところがその記事は、公開からしばらくした後に、突如として削除されてしまった。当時は中国政府によって検閲されたのか、記事が間違っていたなどしたためにkktt氏自身が取り下げたのかは不明だったが、こうして快舟ロケットに格子状フィンが付いていることが明らかになった以上、前者である可能性が高くなった。つまり他の記述もまた、信憑性が高いとみて良いだろう。

即応宇宙システムとしての快舟

快舟ロケットと快舟一号、二号の「災害などの緊急時に観測を行う衛星」という目的については、米国が進めている即応宇宙(Operationally Responsive Space:ORS)システムとの類似性が指摘されている。

ORSは戦争など有事の際に、短時間で偵察衛星や通信衛星を製造し、最適な軌道に打ち上げることができるシステムの構築を目指した計画で、米国防総省や米空軍、宇宙企業などが連携して開発が進められており、これまでに技術実証機のタクサット(TacSat)が3機、実運用機(ORS-1)が1機打ち上げられている。

ORS計画が立ち上がった背景には、アフガニスタンやイラクでの戦争において、既存の偵察衛星が思ったほど役に立たず、より迅速かつ柔軟に事態に対応できるよう求められたという事情がある。基本的に偵察衛星というものは、軍事基地の車両や艦艇の動きなどを定期的に監視することを目的としており、戦闘地域 -特に戦闘地域がめまぐるしく変わる対テロ戦争- の偵察とはそもそも相性が悪い。

また、衛星が故障した場合に、代替機を打ち上げるまでに数年を要することも課題となった。これはその後、中国が衛星破壊兵器の実験に成功したことが契機となり、敵に破壊された場合の課題ともなった。

そこで、小型の偵察衛星を複数軌道上に配備して撮影頻度を高め、また必要とあれば一週間以内という短期間のうちに衛星を製造して打ち上げることを可能にする、ORS計画が立ち上げられた。さらに、その衛星からの画像は、戦場の兵士が持つ端末機器で直接閲覧できるようになるという。

快舟ロケットと快舟一号、二号が、果たしてこのORS計画に対抗したものなのか、あるいは参考をしたものなのかは不明だが、似通っていることは事実だ。また中国にとってもORS計画のような衛星を持つことは有益であろう。

中国は四川大地震に代表されるように地震大国であり、また干ばつや洪水といった災害も頻繁に起きている。その対策として、災害時に即座に見たい場所を観測できる衛星システムを造るということは、結局は中国の国力の維持、発展に繋がる。また災害時に即座に衛星が打ち上げられるということは、そのまま戦争時に-、と言い換えても矛盾はない。中国の仮想敵国である日本や米国はともに強力な航空機や艦艇を持っており、そこを突破するためには宇宙からの情報、とりわけ見たい場所の画像を、見たいときにすぐ撮影できるような衛星は役に立つであろう。

参考

・http://www.casic.com.cn/n103/n133/c2022698/content.html
・http://bbs.9ifly.cn/thread-12572-1-1.html
・http://forum.nasaspaceflight.com/index.php?topic=35531.0
・http://zhuanti.casic.cn/n1996649/n1996661/n1996681/index.html
・http://zhuanti.casic.cn/n1996649/n1996669/c2017598/content.html