新聞の見出しに「ポスト福田!」の文字が躍ったのも束の間、それが現実のものとなってしまうどころか福田内閣は既になく、新生麻生内閣が発足しました。 混乱した政局の中、低迷した景気をいかに下支えすることができるか。クライアントに中小企業が多い私としては、それが一番の気がかりでなりません。
さて前回は、人材投資促進税制の第1回目ということで、この制度がいかに節税面から効果的な制度であるかシミュレーションをしながら紹介しました。 今回は、制度の内容について適用範囲や注意事項など、具体的に解説していきたいと思います。
誰への教育訓練費が対象となる?
まずは、教育訓練費の対象者ですが、「自社の使用人又は個人事業者のその事業に係る使用人」とされています。使用人とは、正社員、契約社員、パートやアルバイト、その他対価を受け取ってその事業に使用される人たちのことです。 経営に携わる役員や個人事業主自身、また、役員や個人事業主の親族や内縁関係にある人などは使用人だとしても対象となりません。また、内定者等の入社予定者など、まだ就業していない人も対象とはなりません。
まぁ、経営者が自分自身や身内に教育をした場合、それが業務上必要なことであれば、研修費などとして経費にすることはできるのですが、特別な減税は利用できないということですね。
余談ですが、税法では内縁関係にある人を「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」と表現しており、あらゆる場面で親族と同様の税制上の規制をしています。 「事実上婚姻関係」とは、要は同棲状態にあることをいうのですが、別々に住んでおり、付き合っている男女のカップルや、もっと言えば、同棲している同性のカップルなどはどうなるんでしょうかね…税法というお堅い法律ではありますが、興味は尽きません。
どんな教育訓練費が対象となる?
続いて、どんな教育訓練費が対象となるのか、基本的には「使用人の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用」ということになっていますが、具体的に確認してみたいと思います。
企業で教育訓練といえば社内研修が代表格ですが、教育訓練には講習形式の研修以外にも、実習形式のものもあります。最近はeラーニングというものもあります。さらには個別の技術指導というのだって企業内の教育訓練です。人材投資促進税制の対象となるのは、その形式にとらわれることはありません。
一方、教育訓練に掛かる費用といえば、研修用資料などの教材費や講師の謝礼などは分かりやすいと思いますが、その他、施設の利用費や研修用のプログラムを開発する場合にはその費用も掛かります。 ただし、社内研修にかかる費用はすべて人材投資促進税制の対象となるかといえば、そうではないので注意が必要です。
研修用資料などの教材費や講師の謝礼はどお?
ますば、研修用資料などの教材費についてですが、書籍などの資料や、実習用材料などの教材に加え、教材作成の際に生じるライセンス料や監修料などの費用も対象となります。 ただし教材の中には、固定資産になるような耐用年数が1年を超え、金額が単価10万円以上のものもあります。この場合は、残念ながら対象となりませんので注意が必要です。 講師を招いた場合は、謝礼に加え、交通費や宿泊費、食事代などが掛る場合もあります。これらも対象となります。しかも、子会社や関連会社等の役員や使用人を講師として招いた場合も、対象となります。 ただし、自社の役員や使用人を講師とした場合の人件費などはもちろんのこと、交通費や宿泊費、食事代なども対象とはなりません。自社の役員や使用人を講師にした場合は厳しいんですね。 雇用契約ではない外部の専門家や技術者と指導契約等を結び継続的に講義や指導などを依頼する場合、それは雇用契約ではないので対象となります。
施設の利用料は?
さて続いては、施設の利用料について見てみましょう。教育訓練は、社内の会議室で行うこともあれば、どこかホテルの一室を借りて缶詰めで行うこともあるでしょう。また、自社工場などの現場で行うこともあれば、設備の整った施設を借りて行うこともあります。
この場合も、自社の会議室や工場で行った場合の減価償却費や水道光熱費などは対象となりません。一方で、子会社や関連会社などの設備であったとしても、その利用料や賃借料を支払った場合は、対象になるとされています。 つまり、教育訓練を行うために子会社や関連会社を含めて、外部へ支払った費用は対象となるのです。
ちなみに、施設に限らず、教材として機材などをレンタルやリースした場合も対象になるとされています。
このようなお話しをしていると、だんだんとこんな場合は? あんな場合は? という疑問が生まれてくるのではないかと思います。例えば、自社物件を持たず、事務所を借りている場合の賃借料は対象となるのか? であるとか、親子会社間、関連会社間でお互いに自社の施設を使わずに施設を貸し合って、お互いに利用料を支払い合えば対象になるのか? であるとか、教材であったとしても固定資産は対象とならないのであれば、リースを組んでしまえば対象となるのか? であるとか…私はこのようなクイズのような想定をしながらいろいろと考えるのが比較的好きな方なのですが、一般的に税務署はこの手の想定に対しては回答しないという主義をとっています。
ちなみに、自社物件を持たず、事務所を借りている場合の賃借料は対象となるのか? という想定に対しては、これは無理でしょう。 教育訓練を目的として借りている物件であれば対象となりますが、借りている事務所の一部を利用しての教育訓練ですから、難しいと思います。
続いて、親子会社間、関連会社間でお互いに自社の施設を使わずに施設を貸し合う場合ですが、実際にトレーニングがおこなわれており、利用料の支払いがあるのであれば、認められると思います。
最後に、固定資産になってしまう教材はリースを組めば対象となるのかとの想定にたいては、対象になると思います。 もっとも、リース料の場合は、その年度に支払ったリース料しか対象となりませんので、注意が必要です。
さて、そろそろだいぶ長くなってきましたので、続きは次回にまわしたいと思います。次回は、今回に引き続き、制度の内容について適用範囲や注意事項など、具体的に解説していきたいと思います。
(税理士・行政書士 杉山 靖彦)