やはり自分の身は自分で守らなければ…

米国のサブプライムローン問題に端を発し、原油、原材料高などもからんで景気後退が顕著になる中、政府与党は8月29日に経済対策閣僚会議を開いて、総合経済対策「安心実現のための緊急総合対策」を決定しました。

その中には定額減税の年度内実施も対策に盛り込まれており、恒久減税と言いながら平成18年をもって定率減税が廃止されたばかりにもかかわらず、税金に携わる者として、政府与党の政策はいつもながら節操がないな~と感じざるを得ません。

しかも、その総合経済対策を決定した福田首相は、臨時国会を前にして辞意を表明する始末。こんなんで本当に結果が出るのかなとますます不信感が募るばかりです。

政府がそんな状態ならば、定められた法律下において自ら工夫をこらすしかない。そこで本連載では、主に中小企業の経営者や経理財務の実務に携わる方々を対象に、税務、財務、会計に関する知識、テクニックを身に付けて頂くことを目的に、さまざまな角度から解説をしていきたいと思います。

使ったお金以上に税金が戻ってくる!?

失望することの方が多い政府の政策ですが、時として「これはいい!」と思わずうれしくなる施策も中にはあったりします。

しかもそれが、もし使ったお金以上に税金が戻ってくるという施策だとしたら、どう思いますか? もちろん、是非とも使ってみたいと思うことでしょう。

ただし税制というのは、たとえ世の中に存在したとしても、自らその施策を利用するということを申し出なければ、適用されることはありません。

また、その施策にキチッと適合するものでなければ、その恩恵を受けることはできないものなのです。

そのために、その制度を正しく理解して、専門家のアドバイスを受けながら活用していくことをお勧めします。

前振りが長くなりましたが、「使ったお金以上に税金が戻ってくる」制度、ご紹介しましょう、それは人材投資促進税制です。

人材投資促進税制とは

人材投資促進税制は、実は既に平成17年4月1日から施行されているのですが、(人手不足ではなく)人材不足からくる人材育成が急務となっている我が国において、企業における人材の育成、強化への取り組みを後押しするため、教育訓練費の一定割合を法人税額から控除するという制度です。

まぁ、ここまでであればよくありがちな税制の一つでしかないのですが、特筆すべきはその内容です。

基本制度は、教育訓練費を前2事業年度の平均額(基準額)より増加させた企業について、その増加額の25%に相当する金額を当期の法人税額から控除する(法人税額の10%を限度)というものです。

つまり、仮に前年度と前々年度に費やした教育訓練費の平均額より当期の教育訓練費が増えたならば、その25%相当分の税金を安くしますよという制度です。

さらに、中小企業の場合は選択できる特例があって、教育訓練費を上記基準額より増加させた場合、教育訓練費の総額に対し、増加率の1/2に相当する金額を当期の法人税額から控除する(法人税額の20%限度)。しかも、それは地方税(法人住民税)にも及ぶというのです。

これはちょっとわかりにくいのですが、中小企業の場合は、前年度と前々年度に費やした教育訓練費の平均額より当期の教育訓練費が増えたならば、その増加率の1/2(20%が上限)を当期の教育訓練費全体の金額に掛けた金額相当分の税金を安くしますよ。しかも、それは国税だけでなく、地方税にも及びますというものです。

ちょっとシミュレーションしてみましょう

言葉で言っても分かりにくいと思うので、実際に数字を出してシミュレーションしてみることにしましょう。

まずは、前年度と前々年度の平均教育訓練費が6,000万円だった大企業が、当期に教育訓練費を1億円に増やした場合(基本制度の場合)です。

まずは、この6,000万円を1億円に4,000万円支出を増やしたことにより減少する税金は、

(1億円-6,000万円)×42%=1,680万円

となります。

続いて、6,000万円の教育訓練費を1億円に4,000万円増やしたことにより、人材投資促進税制により控除される税金は、

(1億円-6,000万円)×25%=1,000万円

となります。

つまり、この企業は4,000万円の追加支出に対して、1,000万円と1,680万円の合計、2,680万円が控除されることになります。

面白いのはここからです。前年度と前々年度の平均教育訓練費が100万円だった中小企業が、当期に教育訓練費を150万円に増やした場合(特例の場合)、この100万円を150万円に50万円支出を増やしたことにより減少する税金は、

(150万円-100万円)×40%=20万円

そして、100万円の教育訓練費を150万円に50%増やしたことにより、人材投資促進税制により控除される税金は、増加率の1/2を教育訓練費の総額150万円に掛けられるのですが、20%が上限なので、

50%×1/2>20%
150万円×20%=30万円

となります。

しかも、それは地方税まで及びますから、

30万円×20.7%(東京都の場合)=6万円

つまり、この企業は50万円の追加支出に対して、20万円と30万円と6万円の、なんと合計56万円が控除されることになります。

これは、シミュレーションであり、控除額の上限などは考慮に入れていませんので、あくまで理論上ということでしかありませんが、支出額以上の控除を認められる税制はなかなかありませんので、是非とも有意義に使いたいところです。

次回は、人材投資促進税制の適用範囲や注意事項について、具体的に掘り下げてみたいと思います。

(税理士・行政書士 杉山靖彦)