1月31日、幼児教育の「こぐま会」とアニメーション制作会社「P.A.WORKS(ピーエーワークス)」および系列会社が制作した幼児教育パッケージ「ひとりでがんばりマスター!」がリリースされた。

ドコモの生涯教育プラットフォーム「ドコモgacco」の「L3(エル・キューブ)プロジェクト」第一弾としても展開されるこのパッケージだが、そのコンテンツはこぐま会とP.A.WORKSが共同で取り組む「こぐまなびプロジェクト」によるものだ。

なぜこぐま会とP.A.WORKSはタッグを組み、P.A.WORKS側からみれば異分野の教育コンテンツの制作に乗り出したのだろうか。

前回はドコモgaccoとの協業の狙いなどについて聞いた。最終回となる今回は、同社の専務取締役の菊池宣広氏、および教育事業を手がける系列会社・PALABO取締役副社長の星川正幸氏に、今後の展望を聞いた。

「ひとりでがんばりマスター!」教材パートのスクリーンショット

――最近の若いお父さん・お母さんは、スマートフォンやタブレットを使ってお子さんと遊んだりYouTubeを見たりと活用が進んでいる印象がありますから、若い年代の親子にとっては、教材の内容にもより取り組みやすいかもしれませんね。

星川氏: 論理的に考える内容だったり、図形センスの問題だったりいくつか領域がありまして、それぞれに対して問題が設定されています。

「ひとりでがんばりマスター!」に関して、大人がやっても「あ、ちょっと聞き逃した」みたいなミスが起こりますし、考え込んでしまう問題もあります。論理的に考える、ということは、いくつになっても大切なことですから、先ほどお伝えしたみたいに、幅広く展開できる可能性を感じています。

菊池氏: 余談ですが、最初にこぐま会の授業を参観させていただいた時、「45年前にこの授業を受けられていたら、自分の人生にも、もう少し違う可能性もあったんじゃないか(苦笑)」と、思いました。言われたまま学ぶのではなく、自分で考えることを訓練として受けていれば、その後の人生が違っていたかもしれないと感じたんですね。

私は富山で生まれ育って、この件に携わるまでこういった学びのチャンスがあることも知りませんでした。国内だけでなく海外の人たちでもこぐま会の学びに触れるチャンスを届けられるのは、今この時代だからできることで、すごく大きな可能性を秘めていると考えています。

P.A.WORKS 専務取締役の菊池宣広氏(左)、PALABO取締役副社長の星川正幸氏(右)

――国内の問題で言えば「地方格差」もありますし、東京にいなくても受けられるのは、eラーニングの大きな利点ですね。

星川氏: 子どもの習い事というと水泳、ダンス、英語など「早くから始めた方がいい」と言われるものがあり、「プロになるなら早くから始めた方が有利だ」みたいな言説は、半ば常識のようになっています。ですが、なぜか「考えること」に関して、そうは思われていないのが現状です。

「子どもの読み・書き・計算を早いうちから」という考え方もありますが、それらはただのツールでしかないので。こぐま会が提唱する「教科前基礎教育」は、道具の使い方を習うその前にやらなきゃいけないことなんです。

――教育用コンテンツというまったく違う領域に取り込まれるということにあたって、何か試行錯誤したことはありますか?

星川氏: 課題を解いてもらうのに、本当は物を使うのが一番わかりやすいんですね。こぐま会の教室では物を使って、日常の遊びの延長線上で問題を解いていきます。その体験をアプリに落とし込むのがとても難しいです。

どうすれば、キャラクターのふでまるたちがいる世界に感情移入しながらも、すんなりと学びに入っていけるか。まだまだ100%まで出来ているとは思わないですけど、この世界観の中でこぐま会の学びができるように、ストーリーと教材パートの組み合わせ方には注意して作っています。

「ひとりでがんばりマスター!」教材パートのスクリーンショット

――P.A.グループとして今後、教育事業にはどれぐらいのスパン・規模感で取り組まれていくのか展望を教えてください。

菊池氏: 我々が日頃手がけているTVアニメーションや映画はエンターテインメントですが、この、「こぐまなびプロジェクト」は教育事業です。エンターテインメント性があって学びやすいものを目指していますし、学びのハードルを下げるという意味ではアニメのポテンシャルを活かしたいですが、一方で教育事業であることを考えると、一時的なヒットを狙うのではなく、長い期間続けていけることが重要であると考えています。

今後も多くの人たちが学んでいただけるシステムを提供し続ける。このことを一番の目標として置いていきたいと思っています。P.A.グループの中でも従来のジャンルと違う事業であると位置づけていますので、我々としてはそのスタンスを大切にしつつ、学んで頂けるチャンスというのを継続的にご提供できればそれが一番幸せかなと。

――継続的なシステムの提供ということは、今後新規教材のリリースについてのご予定もあるのでしょうか?

菊池氏: 「がんばりマスター!忍者ふでまる」シリーズ以外のものを指していらっしゃるとすれば、今のところは考えていません。

こぐま会の教室に通う子ども達が毎年入れ替わるように、教材の方が変わるのではなく、触れる方が変わっていきます。ですから、通常のTVアニメーションやコンシューマーゲームのように、新作を次々提供するスタイルと基本的には異なると思います。星川が言ったような、年齢層を広げる方向での同一コンテンツで別のアプローチをする可能性はあるとは思いますが。

星川氏: 私としても、このアプリで遊んだ人が親になって、また子どもにこれをやらせようというぐらいまで継続できたらと考えています。

継続性以外のところでは、KUNOメソッドをもっと多くの人に知っていただきたいという目標があります。こぐま会の教室でやっているのは、昨今話題になっているアクティブラーニングに近いことなんです。久野先生は正解・不正解が目的ではなく、「どう考えてどう答えるか」ということを子どもたちと対話することを徹底していて、非常に素晴らしい、まさにこれからの時代に必要とされるメソッドだと思います。

また、文字や数字に頼らない教育法なので、日本に留まらずに海外展開も行いやすいので、日本発の幼児教育ということを目指して、世界で展開していきたいと考えています。

――ありがとうございました。