マサチューセッツ工科大学(MIT)のリンカーン研究所のRyan M.Sullenberger氏ら研究チームが、レーザを使って受信装置を持たない人に可聴メッセージを送信できることを実証した、そんな論文が発表された。
これは別の言い方をすると、離れた場所から騒音環境下においても、ある特定の個人だけに直接可聴メッセージを送ることができるということだ。
このテクノロジーを活用することで、さまざまなシーンで興味深い活用方法が生み出されるのではないか、そんなことが想像されるだろう。今回は、そんな話題について紹介したいと思う。
レーザで可聴メッセージを送るテクノロジーとは?
では、この“特定の人にだけ可聴メッセージを送る”テクノロジーとはどのようなものだろうか。
これは、空気中の水蒸気にレーザを吸収させることで音が発生するという光音響効果(photoacoustic effect)という原理を活用しているという。受信装置を持たない特定の人の耳に可聴メッセージを送信できるのは、この空気中の水蒸気が受信装置の役割を果たすということだ。
そして、レーザを変調させて送信したい可聴メッセージをエンコードする。レーザは、1.9μmの波長を持つ可変のツリウムレーザを使っているという。このレーザを特定の人の耳に向けて照射し、レーザの波長をスイープすると、送信機から一定の距離でしか聞こえない音声信号を作り出すことができ、特定の人間に局在させることが可能だという。
ちなみに、空気が乾燥している状態でも微量ながら水蒸気は存在するので、可聴メッセージの送受信には問題ないという。
Ryan M.Sullenberger氏らによると、騒がしい環境下で音声メッセージを特定の人だけに伝えたり、犯罪を犯そうとしている人や危険行動をしている人への警告などに使えるのではないかという言及がある。最終的に商業技術につなげたいと語っている。
いかがだっただろうか。
余談だが、パラメトリックスピーカーをご存知だろうか。渋谷駅に設置されたことがあるが、これは特定の領域だけに可聴メッセージを送ることができるスピーカーだ。
筆者は学生時代にこのパレメトリックスピーカーからの音を聞いたことがある。実際にスピーカーが自分の方向に向いた時だけに音が聞こえることにとても驚いた記憶がある。照明などからの光は波動の性質として回折により広がるのと同様に音も回折により広がるものが普通と考えていたからだ。
音にもレーザのように指向性を生み出せるテクノロジーがあることに驚いたのだ。このMITのレーザは、ある特定の人の耳に可聴メッセージを送れるという、パラメトリックスピーカーを超えるすごいテクノロジー。今後商業化された暁にはさまざまな市場で活用されるのだろう。