衛星画像を見たことはあるだろうか。とても美しい画像が多く、写真集にまでなっている。
では衛星画像は鑑賞以外でどのように活用されているのだろうか。
従来のOld Spaceから、政府、自国の宇宙機関の衛星で撮影された衛星画像は主に災害監視、安全保障、もちろん、農業、漁業といったさまざまな業界で活用されてきた。
今もなおそういった業界で活用されているが、今回はタイトルのとおり、衛星画像の利用の方向性と衛星画像の意外な活用について紹介したいと思う。
主にNew Spaceにおける事例になるが、なるほどと思っていただけたり、ひとつでも知らない事例があり、新しい視点を持っていただけることを期待している。そして今後のキャリアなどに役立てていただけたら幸いだ。
衛星画像とは?
衛星画像とは、宇宙の軌道上を飛行している人工衛星から地球などを撮影した画像をいう。 今回紹介する事例は地球以外を撮影した画像も含めたが、この衛星画像の種類は多岐にわたる。
というのは、光学で撮影したものもあれば、レーダで撮影したものもある。光学の場合、スマホやデジカメで撮影するようなカラー画像もあれば、白黒画像(パンクロ画像)もある。
赤外線領域でみたり、マイクロ波領域をみたり、いろんな感度をもったセンサーで撮ることでさまざまな情報を得ることができるのだ。
赤外領域であればよく農作物の生育状況の把握に使われるし、マイクロ波領域であれば水分の把握に使われる。レーダであれば雲があっても夜間であっても撮影可能だ。今現在、大型衛星から小型衛星まで300機以上の衛星が宇宙から衛星画像を提供しているという。これらの衛星をリモートセンシング衛星、地球観測衛星なんて呼び方もする。
衛星画像の利活用の方向性はおおきく3つ!?
衛星画像の利活用は、次の3つにまとめることができるだろう。
1つ目は現状の正確な把握、2つ目は未来予測、3つ目はリアルに可能な限り近いバーチャルの創造だ。
まず最初の「現状の正確な把握」について詳しく見ていこう。 現状の正確な把握は、Old Spaceから活用されている手法だ。衛星画像を実際に見ることで、その画像に映った事象を正確に分析し、把握することだ。
例えば、自然災害による被害状況、森林伐採の進行度合い、農作物の生育状況などの把握が該当するだろう。農作物の生育状況の把握でいえば、お米の青天の霹靂、佐賀県の高品質なお茶のブランド化といった例が挙げられるだろう。
そして油田や温泉地の探索、石油備蓄タンクの備蓄量の把握、自宅用太陽光発電量の把握など、このあたりは読者の中にはご存知が多くいらっしゃるだろう。
もうすこしNew Space寄りの事例を紹介すると、例えば鉱山の3Dモニタリングがある。これは、レーダー衛星のSAR干渉法を使用すると、正確な標高マップと相対的な表面変位マップを測定できる。これらの測定値を分析すると、観測期間中に掘削された土壌の量を推定することができる。
これにより鉱山の安全管理しているのだ。例えば、地盤沈下。地盤沈下を頻繁に監視することは、地滑りの危険を回避するのに役立つ。そして、もし鉱山が近くにあれば近隣の住宅や近くのインフラに対して突然の地滑りなどの深刻な被害を事前に回避するにも役立つという。
また、近年は、リモートセンシング衛星がコンステレーションを形成することで、撮影の頻度が向上している。このように頻度高く撮影し、その画像に写った被写体の数を正確に把握するなどして、知りたい事象の現状の正確な把握ができる。
一例として、SpaceKnowが行っている中国の自動車の生産にかかる事実把握がある。SpaceKnowが衛星画像やAIなどで開発した自動車生産にかかる指数と中国の自動車協会が発表しているものと比較し、傾向の類似性から衛星画像でも正確に物事が把握できることを証明している。
ほかにも中国政府が公式に発表している経済指標とSpaceKnowが開発した経済指標を比較するという例もある。この情報を投資家などに販売提供することで正確な投資基準に役立ててもらっている。
ほかにも温室効果ガスの排出量削減や排出量取引などにも活用できるだろう。
そのうちのひとつが、カーボンプライシングだ。二酸化炭素を排出した量に応じて、企業や家庭に金銭的なコストを負担してもらう仕組みのことで、炭素税や排出量取引制度があり、上限を超える企業は、上限に達していない企業からお金を払って必要な分を買い取るのだ。
これには、二酸化炭素の正確な把握が必要だ。例えば、世界に先駆けてDARAFLUCTは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測データを使って、大気中のCO2と経済活動を可視化する「DATAFLUCT co2-monitoring.」というサービスを提供している。
そして、未来予測。将来予測でもよい。これは人工知能AIのディープラーニングの技術発展による寄与が大きい。これまでの予測は、ある物理法則などを表現する方程式を解くことで結果を得ていた。これに摂動などが加わることで計算が困難になるので、近似したりする。そして重い計算はスーパーコンビュータを用いて計算する、これが一般的だろう。
しかしこのディープラーニングは、過去の大量の事象を統計的に分析するので、方程式に依存することなく精度の高い未来の解を得ることができるのだ。現在は過去の衛星画像を大量にディープラーニングすることで、未来を正確に予測している。これはOld Spaceの時代にはなかった手法だ。
例えば、過去何年分にも及ぶ衛星画像をディープラーニングする。そうするとその土地において、近くに河川があるケースは、このような街に発展していく、道路の形状によっては、建物はこうだ、というかたちで将来の街づくりの情報に役立てているのだ。これらの情報はデベロッパーをはじめとした業者へと販売している。
ほかにも天気予報の分野の事例もある。例えば、突然発生するゲリラ豪雨。いま正確に予測できるのもディープラーニングなどのおかげだ。実は、衛星画像の活用に限らず、いろいろなデータを活用しディープラーニングやさまざまな技術を融合させることで、ありとあらゆるものが未来予測できる可能性があるかもしれない。
最後は、リアルに可能な限り近いバーチャルの創造。衛星画像と3DCG技術を活用して仮想空間にもう1つの世界を自動生成するAIを実験的に開発したスペースデータの技術はこれに該当するだろう。
ほかには、ゲームが挙げられるだろう。例えば、スノーボードゲームSSXでは、アメリカ航空宇宙局(NASA)のTerra衛星のASTERという装置で取得した実際の詳細な山の地形データを使ってゲーム上でリアリティーを提供している。
地球の画像ではないが、GREEはJAXAと共同でJAXAの月周回衛星「かぐや」で得られた月の衛星画像などのデータを活用してゲームを開発した。開発したVR月面レースは、ヘッドマウントディスプレイでVR空間内の月面をバギーで運転。タイヤによる走行スピードの違いを体感することで、月面の砂「レゴリス」の特徴を学ぶことができるという。他にもVR月面バスケ、VR月面スキージャンプというコンテンツもある。
SpaceVRは、自社の小型衛星で宇宙空間360度のVR画像を取得する。このVR画像を使って、バーチャルリアリティ体験を提供しようとしている。
SpaceVRの強みは、革新的なバーチャルリアリティ技術と以下の図で見るような装置によって作り出す無重力模擬環境だ。これらを提供することで、宇宙へ行かなくても不思議な宇宙への”旅”を提供しようとしている。これは、エンタテインメントの要素、教育の要素、精神疾患の治療の要素も含まれているという。
いかがだっただろうか。今回は、衛星画像の利活用方針と衛星画像の意外な利用について紹介した。
衛星画像と聞くと理系のかたが当たり前に携わる分野と思うかもしれないが、今回の記事から文系のかたも活躍できる分野となりつつある、そのように感じている。
読者の皆様には、なるほどと思っていただけたり、ひとつでも知らない事例や気づきがあったり、今後に役立てていただけたら幸いだ。