アストロスケールホールディングスの子会社であるアストロスケール米国(以下アストロスケール:Astroscale)は、自社の寿命延長衛星「LEXI(レキシー:Life Extension In-Orbit)」への燃料補給をOrbitFabが行うという商業契約を締結したと発表した※1

日本を代表する宇宙関連企業であるアストロスケールは、皆さんもご存知だと思うが、改めて同社の寿命延長衛星LEXI(とはどのような衛星なのか、OrbitFabの燃料補給サービスとはどのようなものなのか、今回はそんな話題について、紹介したいと思う。

アストロスケールの寿命延長衛星LEXIとは?

寿命延長衛星LEXIは、2026年までに静止軌道帯へ打ち上げられる予定の衛星だが、どのようなサービスを提供するのだろうか。

一言で言えば、静止衛星の寿命を延命できるようにするサービスだ。

静止衛星は、その名のごとく静止軌道に投入されている衛星で地球から見るとあたかも静止しているかのように見えるため、通信、気象、安全保障上の観点で活用されている。

そのような静止衛星だが、現在では、電気推進系で静止軌道へと投入するケースも増えてきているが、静止衛星を静止軌道帯へと燃料を消費しながら投入するには、多大なコストがかかる。

そして、燃料が枯渇してしまえば、静止衛星は軌道や姿勢を維持できなくなり寿命を迎えることになるのだ。

そのような観点で商機を見出したのがアストロスケールのLEXIだ。寿命延長衛星LEXIは、通信衛星を主とする静止衛星が軌道投入はもちろんのこと軌道制御や姿勢制御のために搭載されている燃料が枯渇した後でも軌道制御や姿勢制御できるように、もしくは枯渇しないよう静止衛星に搭載されている燃料を、軌道制御や姿勢制御などのために使用しないようにするなど、静止衛星の寿命を延命するサービスを提供する衛星だ。

もちろん、静止衛星の寿命後の廃棄運用に対してもサービスを提供する。

  • LEXI

    アストロスケールの寿命延長衛星LEXI(出典:アストロスケール)

ぜひ、アストロスケールのLEXIの動画をご覧いただきたい。

Astroscaleの寿命延長衛星LEXIの動画

まず、LEXI自身のスラスターは、昆虫の触手を思わせるようなアームからスラスターを吹かせ、軌道や姿勢を維持している。まずこれが興味深い。

そして、動画では、高度3万6000kmより2000m高い高度から、依頼された静止衛星まで、高度を下げてLiDARセンサを使ってランデブードッキングをする。この高度を下げる技術もすごい。

依頼された静止衛星にLEXIの数本のアームで掴み、ドッキングする。LEXIのスラスターを使って、静止衛星の軌道や姿勢を依頼された状態へと移行するのだ。

アストロスケールとOrbitFabが連携したらどうなる?

では、アストロスケールとOrbitFabの連携とはどのようなものだろうか。

OrbitFabのGEO燃料運搬船からアストロスケールのLEXIに最大1,000kgのキセノン推進剤を補給するというもの。これによっても、LEXIのサービスの拡大や柔軟性が向上するという。

このような連携が宇宙ビジネス市場において当たり前になると、静止衛星のみならず、低軌道衛星も含めて設計の概念が大きく変わる印象がある。

もしかしたら未来には、必要最低限の燃料やスラスターだけを搭載すればよいといった状況や、スラスターは完全に不要になったりすることもあるかもしれない。

このように燃料補給ビジネスは軌道上衛星サービスの一例だが、ほかにもスペースデブリ除去ビジネス、軌道上衛星修理ビジネスや軌道上衛星組み立てビジネスなどを計画、展開する国内外の宇宙ビジネス企業は、このように連携し合う傾向が今後より一層強まる印象を受ける。

  • 連携

    アストロスケールとOrbtiFabの連携(出典:アストロスケール)

いかがだっただろうか。アストロスケールによると、2028年までに寿命延長および他の軌道上衛星サービスは、おおよそ4000億円を超える収益を生み出すと推定しているという。 従来Old Spaceの時代にはなかったNew Spaceならではの発想とビジネス領域で新しい未来を開拓するアストロスケールの今後の展開がとても興味深い。

文中注釈

※1https://astroscale.com/astroscale-u-s-and-orbit-fab-sign-first-on-orbit-satellite-fuel-sale-agreement/