核融合炉は、いつ実現するのだろうか。まだ正直なところ課題は多い。
しかし、核融合実現に向けて果敢にチャレンジするベンチャー企業が世界には存在する。それが、General Fusion。
Amazonの創業者、ジェフ・ベゾスも出資するGeneral Fusionは「磁化標的核融合」という方式で核融合を実現しようとしている。おそらくこの方式は日本では行われていない。
今回は、そんなGeneral Fusionにフォーカスしたいと思う。
General Fusionが試みる磁化標的核融合(MTF)とは?
カナダの核融合ベンチャー、General Fusionは、「Magnetized Target Fusion(MTF)」という方式で核融合を実現しようとしている。
MTFは日本語で磁化標的核融合といい、正直日本では馴染みが薄いというか、ほぼ行われていないと思う。
このMTFは、磁場閉じ込めと慣性核融合の中間の方式で、コンパクトトロイドプラズマを爆縮することで核融合反応を得る手法だ。
同様の方法は、アメリカのロスアラモス国立研究所などにおいても研究が進められているが、日本ではこの手法の研究はおそらくない。
そんなGeneral Fusionだが、実は、Shopifyの創業者でCEOのトバイアス・ルークやAmazonのジェフ・ベゾスが出資した企業として有名なのだ。Crunchbaseによると、現在までに約192億円の資金調達に成功しているという。
General FusionのMTF核融合炉とは
General Fusionの核融合炉のイメージは以下のようだ。
断面図になっているが、中央に水色に光っているのがプラズマだ。そのプラズマの上部にはプラズマインジェクターが設置されている。プラズマの左右に伸びる何本もあるパイプ状のものがコンプレッションシステム。プラズマとコンプレッションシステムの間には液体金属チャンバーがある。このGeneral Fusionの核融合炉ではこの3つのシステムがとても重要だ。
まず、世界最大というプラズマインジェクター。プラズマインジェクターで最初のプラズマを生成し、炉の内部へと注入する装置。注入されるプラズマは500万℃にも達するという。
そして液体金属チャンバー。内部壁が高速回転していて、液体金属はその壁面に均一に広がりキャビティを形成する。この液体金属はリチウムを使っているようだ。
そして、コンプレッションシステム。このコンプレッションシステムからは、水素ガスが空気銃にようにプラズマに向かって打ち込まれる。この水素ガスの打ち込みのタイミングは、パイプごとに制御され、内部のプラズマが中心部で小さな球状になるように打ち込まれるのだ。
どういうことかというと、この水素ガスの入射タイミングによって液体金属リチウムを小さな球状に変形していき、プラズマを圧縮し爆縮状態を作り核融合反応を起こすという仕組みだ。そして爆縮後は元の状態に戻る。
この流れを繰り返し行うことで核融合反応を継続させるのだ。読者のなかで勘が鋭いかたは、なぜ、液体金属にリチウムを使っているのか分かっただろう。リチウムと中性子の反応によってトリチウムを生成することができるからだ。さらに、このMTFでは、プラズマの閉じ込め時間がトカマクやヘリカルなどの磁場閉じ込め方式でのプラズマの不安定性による崩壊の時間よりも短くて済むのだ。
そして、2021年6月17日、General FusionはこのMTF技術を実証するプラントを英国に建設することを発表した。建設は2022年、操業はその約3年後を予定しているという。
では、なぜ、カナダの企業が英国で実証プラントを建設するのだろうか。General Fusionは、カナダの企業でバンクーバーを拠点としているが、合わせて英国のロンドンにも拠点を持っているのだ。
そしてGeneral Fusionと英国の原子力公社であるUKAEA(United Kingdom Atomic Energy Authority)と強力なパートナーシップがあることも理由のひとつに挙げられるだろう。この実証プラントは、英国のカルハムという町に建設されるという。カルハムは、Culham Centre for Fusion Energy(CCFE)など核融合や原子力などの研究学園都市のようなところだ。
いかがだっただろうか。今回は、General Fusionを紹介した。
「地上の太陽」、「夢の発電所」などと注目される核融合エネルギー。実現されると、世界のエネルギー事情もガラリと変わるスゴイ技術。少しでも知っていただけたら幸いだ。