「あの人は何を考えているのだろう?」「表情と発言がマッチしていない……」など人の気持ちがわからないと悩んだり、迷ったり、苦しんだりしたことは人間ならば誰でもあるはずだ。
対人関係、恋愛、ビジネスでの営業、折衝のシーンなど、考えただけでもたくさんそのような場面はあるだろう。
このように、日常でヒトの表情から感情を読み取ることは難しい。 しかし、人工知能AIの発展によってヒトの感情を読み取ることが可能になってきている。 今回は、そんな感情認識AIについて紹介したい。読者ご自身の悩みに照らして読んでいただけたらと思う。
表情と感情
表情とは、他人とコミュニケーションを実施するうえで感情を表す重要なもの。しかし表情からヒトの感情を完全に読み取ったり、理解することは難しい。
例えば、目上のヒトの機嫌を表情などから汲み取り、ご機嫌をとったり、ことを荒立てないよう行動したりと、社会人であれば誰でも経験のあることだろう。流行りの言葉で”忖度”なんて表現されたりする。
他にも恋愛において異性の気持ちを理解したいと、表情から推測するが、全然違ったなんてこともあるだろう。
表情からヒトの感情を完全に理解することは難しいが故に興味深いのだが、探究心旺盛なヒトはこれを心理学の分野で主に研究してきた。
例えば、この分野での先駆者で世界的に著名なエクマン博士がいる。表情と感情というものは文化と関連があり、基本的な6つの感情、怒り・嫌悪・恐怖・喜び・悲しみ・驚きを表す普遍的な表情がある、という理論を提唱している。
この理論は「エクマン理論」として有名だが先日、京都大学で「日本人の表情がエクマンの理論とは異なることを実証 -世界で初めて日本人の基本6感情の表情を報告- 」という研究結果が報じられている。このようにヒトは、表情と感情に関してとても興味があるのだ。
表情を分析できるAIとは?
心理学の分野でもヒトの表情から感情を分析する研究が盛んであることを先に紹介した。 一方で、現代では、AIなどを活用した顔認識技術が進み、ヒトの表情を単純な喜怒哀楽だけの分析だけではなく、例えば、ある商品を見たときに心から興味を示しているか、それとも実際にはさほど興味を示していないか、など微妙な表情と感情の違いを判定することができたりする。
このようにAIをつかった感情分析では、ヒトの表情から微妙なニュアンスを、ヒトが見分けられる以上のことまで読み取れるのだ。
例えば、ヒトの目の動きや視線、瞳孔の大きさなどから人の無意識の感情や思考も推定できる。これには、精細で高速なカメラで目の動きや表情の微細な動きなどを捉えて、AIでディープラーニングすることによって、精度が増し、本当に些細な心の動きまでも察知できるようになるという。
Affectivaの表情・感情分析アプリとは
Affectivaという企業を紹介したい。
Affectivaとは、マサチューセッツ工科大学のMIT Media Labから2009年にスピンアウトした表情・感情分析のAIを開発する世界を代表する企業だ。
2021年5月25日、ドライバーモニタリングシステムの企業であるSmart EyeがこのAffectivaを約80億円で買収している。Affectivaは、「Affdex」という感情認識AIを開発しており、これが強みなのだ。
そんなAffectivaであるが「心sensor」というアプリを開発している。動画やリアルタイム映像から感情や表情を分析することが可能だ。
もちろん、このアプリには「Affdex」を使用している。膨大な人間の表情データをもとに、表情データからどのような感情なのかをディープラーニングによって分析。34のフェイスポイントの動きから21種類の表情、7種類の感情、2種類の特殊指標を計測する。
これは、過去の動画にも対応し、リアルタイムでも分析可能だ。これで、相手の表情から感情を読み取ることが可能となるのだ。
また、心sensorを用いて「心sensor for communication」をいうソフトウェアも開発している。
昨今のコロナ禍においてオンライン会議が増えている中で、このソフトウェアを使えば、議参加者全体の雰囲気や傾向を把握・分析することも可能だという。そして、会議で発言していない、マイクをOFFにしている参加者の感情や反応もジェスチャーや表情で把握できるという。
他にも、Smart Eyeの買収に関連するのだろうか、「Automotive AI SDK」というAIを開発した。
これは、ドライバーの感情、眠気、頭の角度やよそ見運転の頻度などを計測。事故発生を未然に防ぐことができる。そして、快適な車内や安全性を向上のために、ドライバーだけでなく同乗者の感情や反応をリアルタイムで把握することもできるようだ。
いかがだっただろうか。今回は、感情認識AIを紹介した。
この分野のプレイヤーは、他の分野と比較するとそれほど多くはない。それだけ、高い技術力などが必要で参入障壁が高いのだろう。もし、表情から感情を正確に汲み取ることができたら、あなたであればどんなことに応用するだろうか。考えただけでもワクワクしてこないだろうか。