台風のエネルギーは凄まじい。時には、人々を危険に晒し、少なからず爪痕を残すこともある。もし台風が来ないように制御できたら、被害をなくすことができたら、そう思ったことはおそらく誰でもあるだろう。
この台風を制御する、そして「脅威」を「恵み」に変える、そんなすごい取り組みが開始されている。横浜国立大学の台風科学技術研究センターだ。
今回は、そんな横浜国立大学の台風科学技術研究センターについて、科学技術振興機構(JST)の「ムーンショット型研究開発事業」と合わせて紹介したいと思う。
横浜国立大学に台風科学技術研究センターとは?
2021年10月1日、横浜国立大学に台風科学技術研究センターが開所された。台風に関する研究所としては、国内初という。
センターには、台風観測研究ラボ、台風予測研究ラボ、台風発電開発ラボ、社会実装推進ラボの4つのラボが設立されている。台風を観測し、予測、そして発電を含めた“社会実装”まで行うという机上検討で終わらない、実施体制がみてとれる。
トップを務めるセンター長は、台風制御の研究で著名な同大学の筆保弘徳教授。10月15日のテレビ朝日の「報道ステーション」でも登場され、興味深い取り組みであることが紹介されている。
この台風制御に関する研究は、JSTのミレニア・プログラムと呼ばれる新たなムーンショット目標注目候補として調査・提案を行った。チームリーダーは、やはり筆保教授だ。
「2050年までに、台風の「脅威」を「恵み」に変換し資源活用することで安心かつ安定した持続可能な社会を実現」というタイトル(調査研究課題名:ムーンショット目標検討に向けた台風制御と台風発電についての研究開発と社会実装に関する調査研究)で調査を実施。
この報告書※1 には、大変興味深いことが書かれている。実際に2050年には、台風が脅威でなくなること、そしてなぜいままで台風が制御できなかったのか、いまなぜ制御が実現できるのかなどだ。また、日本が台風研究において先進国であることも書かれている。すべての研究課題においてプレイヤーが揃っているのも世界では、日本だけという。
そして2021年9月28日、「第57回総合科学技術・イノベーション会議」にて、新たなムーンショット目標として「2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現」が決定したと発表された。 では、台風をどのように制御するのか次で見てみよう。
台風は制御できるのか?
筆保教授によると、台風を制御することは理論的に可能であるという。「台風の繊細な部分をつつくと、台風の構造が変わったり、勢力が弱まったりするのは、シミュレーションの中でも見えている」と発言されている。
では、実際にどのようにして台風の勢力を弱めるのだろうか。2年前の「令和元年房総半島台風(台風15号)」を例に検証したところ、台風の目の中30~50km2の所に、大量の氷をまくことで勢力を弱められるという。
台風は、暖かい海水が蒸発し、上昇気流が生じ、中心部分の気圧が低くなり、勢力が強まる。台風の目の中心に氷などをまくと、温かい空気が冷やされ、気圧の低下をわずかに抑え、勢力を落とすことができるというのだ。
では、なぜ今までできなかった台風の制御が、現在はできるというのだろうか。それは、以前は“効果判定”が不可能だったためとある。
現在ではこの効果判定が数値シミュレーションにより可能になったことで、例えば、前出の台風15号を例に効果判定すると、台風を人工的に制御することで風速を3m/s減少させることが可能だという。この風速3m/sの減少だけでも、経済財損失(建物被害)は30%も軽減させられるというのだ。
そして、ある程度台風を制御することができれば、海上にある台風へと台風発電船を向かわせて発電に使用することも可能であるという。
いかがだっただろうか。台風のエネルギーは膨大で、勢力の強い台風だと、日本で消費されるエネルギーの約8年分に相当するというから驚きだ。
この凄まじいパワーを「脅威」ではなく、「恵み」に変えるすごい取り組みは、日本国民、いや世界の人々の概念をガラッと変える取り組みであるとともに、人類を救う取り組みでもあると感じる。敬意を表したい。