バイオマイニングという言葉をご存知だろうか。生物の力を活用して、鉱石から金属を溶かし出す技術のことだ。地球上では、これに関してさまざまな研究開発が行われており、この手法を宇宙へと拡大する動きがある。

では、なぜ宇宙へとバイオマインニングは拡大する必要があるのか、今回は、そんな話題について紹介したいと思う。

地球上のバイオマイニングとは?

マイニングと聞くと、近年より流行りの仮想通貨のマイニングを連想するかたも多いかもしれない。ここでは、鉱石から金属を溶かし出す技術のことを指す。バイオリーチング(Bioleaching)とも呼ばれる。

例えば、JX金属は、チリ国営銅公社(CODELCO:Corporacion Nacional del Cobre de Chile)と共同で設立したBioSigmaにおいて、バイオマイニングの取り組みを実施(2016年にBioSigmaはCODELCOの子会社となったことが発表されている)。

チリの銅鉱山の硫化銅鉱石は硫酸液だけでは銅が溶けにくいが、鉱石の表面に、鉄イオンを酸化する働きのある“鉄酸化バクテリア”を大量に繁殖させることで鉱石中の銅が溶け出てくるという。

他にも、岡山大学、慶應大学、九州大学、東北大学、名城大学、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などもバイオマイニング技術の開発や効果的に鉱物を分解してくれる微生物の探索なども含めて研究を実施している。

岡山大学の上村一雄教授の論文※1 にとてもわかりやすいバイオマイングのイメージが掲載されている。ヒープリーチングという商業的な手法で、黄銅鉱の山(ヒープ)に鉄酸化細菌を含む溶液を散布すると、銅と鉄が溶け出す。各槽で銅と鉄を回収するというものだ。

  • 鉄酸化細菌

    鉄酸化細菌を利用する銅鉱石のヒープリーチングの模式図(出典:生物工学会誌 第95巻 第11号 p662)

宇宙へと拡大するバイオマイング、その理由とは?

実は、宇宙をフィールドとするバイオマイニングの準備は、10年以上前から開始されてきた。英国のエジンバラ大学などだ。彼らはBioRockと呼ばれるマッチ箱サイズの小さなバイオリアクター(生体触媒を用いて生化学反応を行う装置)を開発した。

  • BioRock

    英国エジンバラ大学らが開発したBioRock(出典:Nature Communications volume 11, Article number: 5523 (2020) )

2019年7月、スペースXのファルコン9によって、18個のBioRockが国際宇宙ステーション(ISS)へと打ち上げられた。 その後、ISS内において、3週間の間、火星、地球、微小重力の3種類の重力を模擬した環境下で微生物が月にも豊富にある玄武岩から希土類元素(レアアース)をバイオマイニングできるのか、実験が行われた。

このBioRockでは、月や火星でもよく見られる玄武岩にS.desiccabilis(スフィンゴモナス・デシカビリス)、枯草菌、C.metallidurans(クプリアヴィドゥス・メタッリデュランス)という3種類の微生物を含ませた溶液を浸している。

この実験では重力が変化してもバイオリーチングによる希土類元素の抽出率に有意差はみられなかったという。

  • 実験のイメージ

    国際宇宙ステーションISSの3つの微生物による実験のイメージ(出典:NASA)

そして、2021年9月21日、NASAはISSにおいて、バナジウムにおけるバイオマイングに成功したと報じている。この実験においてもBioRockを活用している。この実験において、重力が低下した条件下でも、バナジウムの抽出効率が283%も増加することがわかったという。

では、なぜ宇宙へとバイオマイニングは拡大する必要があるのだろうか。人類は、アルテミス計画やSpace Xの火星移住計画などで月や火星を目指している。その実現には、正直、まだまだクリアすべき課題があるのが実情だろう。

希土類元素(レアアース)は、コンピューター画面、金属合金、磁石の製造など、月や火星の基地を建設するための重要な材料である電子機器の製造によく使用されている。

また、バナジウムも、月や火星の建物、工具、建設プロセスで使用できる高強度で耐食性のある材料を製造するために鋼に使われる元素である。

これらを月や火星に人類が生活するに足る量を輸送機、宇宙船に搭載することは現実的ではない。すでに枯渇してきている地球から、これらの希土類元素を持ち込むのは、とてつもなくコストがかかる。

実は、月や火星にも貴金属が存在するが、岩や土の中に埋め込まれているため、扱いにくい。地球から採掘設備を持ち込む、もしくは部品を輸送し組み立てることも、コストが高くなりすぎてしまう。 これらを解決する方法のひとつに、バイオマイニングが挙げられるのだ。

  • バイオマイニングイメージ

    地球外の惑星でのバイオマイングイメージ(出典:NASA)

いかがだっただろうか。今回紹介したISSでの結果は、人類が地球から離れ、宇宙での大規模なバイオマイニングが可能であることが示されていると考える。

月や火星へと移住するというニュースには、輸送機やローバーなどがフォーカスされがちだが、このような重要なテクノロジーがあるということについても、知っていただけると幸いだ。

【注】
※1https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9511/9511_yomoyama.pdf