高い頻度で、気持ちの良くないニュースを耳にすることも多い。窃盗、障害、殺人などなんらかの犯罪のニュースが出ない日はない、そんな印象だ。

犯罪がゼロの世の中になればいいのに、そんなことは誰でも一度は考えたことがあるだろう。

実は、犯罪を予測することをビジネスにしている企業がある。 日本のSingular Perturbationsだ。彼らは、国内外の警察・情報機関向けの犯罪予測ソフトウェアを開発している。

では、Singular Perturbationsとはどのような企業なのか、どのような取り組みを実施しているのか、今回は、そんなSingular Perturbationsを紹介したいと思う。

Singular Perturbationsとは?

Singular Perturbationsは、東京を拠点とし、世界最高精度の予測手法を含む独自のアルゴリズムで、犯罪を予測するシステム「CRIME NABI」を提供している。 ホームページには、次のような文章が掲載されている。

「社名の「Singular(特異的な)Perturbations(摂動たち)」は、理論物理の手法名に由来します。やがて社会を変えるような大きなインパクトを与えることになる、今は小さいけれど特異的な技術の芽を育てていく会社です」。

Perturbations(摂動)とは、理系の人間であればご存知のかたは多いだろう。例えば、物理方程式に摂動項という主要項に副次的に影響を与える項目を加えて、計算を走らせたりする。

では、どのようなメンバーで構成されているのだろうか。CEOは、梶田真実氏。女性だ。梶田氏は、2010年3月東京大学大学院を修了したPh.D.ホルダー。統計物理(理論)を専門とし、学術論文の執筆も多数だ。

  • Singular Perturbations CEOの梶田真実氏(出典:Singular Perturbations)

また、CTOの西谷圭介氏はSIerで金融系基幹システムの開発を行ったり、AWSで多くの国内企業のクラウドシステム設計支援を実施するなど、数多くの実績を有する人物だ。2021年6月からSingular Perturbationsへ参画しているという。

同社の特徴は、計算犯罪学、空間統計、計算科学、犯罪学に精通したメンバーで構成されていて、67%がPhD取得者という。顧問にも犯罪心理学を専門とする元科捜研で現東洋大学の桐生正幸教授も参画している。

犯罪予測システム「CRIME NABI」とは?

CRIME NABIは、犯罪(CRIME)と預言者(NABI)に由来して、いつどこで犯罪が起きるかを予測できるシステムのことだ。

過去の情報やリアルタイム情報をCRIME NABIへ入力する。入力情報は、過去の犯罪情報、どこに何があるかという都市に関する情報、緯度経度、高度など地理情報などだ。

このインプット情報に基づき、特許も取得しているAIエンジンを含むCRIME NABIで、犯罪予測情報を時間情報による予測、空間情報による予測を可視化する。

予測結果は、地図上にコンタ図として表示される。緑色は安全、オレンジ色は危険と表示され、矢印マークで実際に犯罪発生地点を示したりもする。 そして、最適な警備の経路も地図上に作成され、警察や自治体などのパトロールに役立てる。

  • CRIMENABI

    CRIME NABIの表示例。左のコンタ図の緑の部分は安全、オレンジ色は危険と予測された部分。それを受けて右のように警備ルートの作成もできる(出典:Singular Perturbations)

過去の犯罪が発生した時間、場所(裏路地、暗いところ、人通りが少ない)、犯罪の種類などと都市、地図情報を他の地点の犯罪データなどからAIで分析し可視化しているのだろうか。

しかしながら、独自のアルゴリズムにより、インプットデータの数が少なくとも高精度なアウトプットが可能だというからすごい。

また、2018年度より情報通信研究機構(NICT)委託研究に単独採択されている。この研究事業は、「PatrolCommunity」という犯罪予測を用いた市民・自治体向け防犯活動支援モバイルアプリを活用しているようだ。

東京都でも、CRIME NABIで地域防犯の実証実験を開始している。リアルタイムに収集したデータに基づいて、犯罪予測に基づきパトロールルートを決めて、市民のかたや自治体、警察のかたがパトロールしているのだ。

実際に、足立区にて実験的に導入中の犯罪予測アプリPatrolCommunityを活用した青色防犯パトカーによる巡回パトロール中に、公然わいせつ事件を取り扱い、犯人を検挙したと2021年2月に発表している。

いかがだっただろうか。Singular Perturbationsという犯罪をテクノロジーで解決するすごい企業が日本に存在する。治安の良い日本よりも、世界の方がニーズが高いかもしれない。まるで、映画マイノリティー・リポートのような世界が実現される、そんな未来もそう遠くはないかもしれない。