GPS(Global Positioning System)をご存知のかたは多いだろう。では、QZSSと表記される準天頂衛星システムはいかがだろうか。

どちらも測位衛星システムに分類される衛星システムだ。測位衛星システムは他にも数種類あるのだが、基本は政府が整備・運用している。

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しかし、この測位衛星システムを民間企業が整備・運用する計画が出てきた。Xona Space Systemsというアメリカのスタートアップだ。今回は、そんなXona SpaceSystemsを紹介したいと思う。

Xona Space Systemsの測位衛星とは?

Xona Space Systemsは、GPSなどのGNSS(Global Navigation Satellite System)の代替手段を提供するアメリカのスタートアップ。「XonaPulser」というPNT(Position,Navigation and Timing)サービス(時空間情報提供)を提供する。

2021年9月22日、Xona Space Systemsは、来年に実施される軌道上実証のために800万ドルの資金調達に成功している※1

ではXona Space Systemsは、どのようにして測位衛星システムを構築するのだろうか。

同社では以下のような衛星イメージを公開している。GPS、準天頂衛星などの測位衛星と大きく印象の異なる衛星だ。

  • Xona Space Systemsの衛星

    Xona Space Systemsの衛星(出典:Xona Space Systems)

他の情報から小型衛星に分類されると考えられるが、ペイロード、サイズ、重量などの詳細は不明だ。測位信号の周波数も不明。原子時計は搭載しないという※2

ただ、XonaPulserは、地球上のどこでも10cm未満の誤差という高い精度が出せることや低コストな衛星システムであること、セキュアな信号を配信することを強く強調している。

民間が利用できるGPS信号は暗号化されていないため、なりすましなどのセキュリティー攻撃を受けやすい。そのため、XonaPulserでは、暗号化された信号を配信することでセキュリティーを高めている。

そして、Xona Space Systemsが構築する衛星コンステレーションは、最終的には300機で、800kmと低軌道であるため、他のGNSSに比べて信号強度が高くなるので、ジャミング(通信のための電波の妨害)などにも強くなるという。

またDOP(GPS測位精度の劣化の程度を表す数値)の観点でも他のGNSSに比べてXona Space Systemsによる衛星コンステレーションは、上空に衛星がまんべんなく配置されているので精度が高くなる。収束時間も速いという。さらにマルチパスにも干渉にも強いという。

  • Xona Space SystemsのPNTサービスの特徴

    Xona Space SystemsのPNTサービスの特徴(出典:Xona Space Systems)

衛星の1機あたり価格帯は、ロンチコストを含めおおよそ1億円以下を見込んでいるようだ。GPS Ⅲの同ケースでの価格は500億円程度となるため、比較すると大分低価格だ。

フェーズを4つに分け、2026年の最終フェーズ3には、300機の衛星を打ち上げて、全世界へとサービスを展開する計画だ。

  • 運用プラン

    Xona Space Systemsの運用プラン(出典:Multi-GNSS Asia、Xona Space Systems)

GNSSの課題からビジネスを展開

Xona Space Systemsは、GNSS市場の課題を起点にビジネスを計画しているという。

GNSS市場の課題とは、米国だけでも年間3,000億ドルを超える市場の多くがGNSSに依存しており、一般に利用できるGNSS信号は、保護されておらず、精度が低く、容易に入手可能なジャマーによるジャミングやスプーフィングなどの影響を受けやすいことだと同社は語っている。

自動運転車、ドローン、自動船舶などの未来をサポートするには、衛星ナビゲーションの信頼性とパフォーマンスを大幅に向上させる必要があるとも同社では説明している。

もう少しこの課題にフォーカスすると、例えば、米国の運輸省によると、米国では、道路の70%以上に雪が降る環境で、人口の70%近くが雪国に住んでいるという。 この地域で天候が悪い場合、自動運転車用のLiDARやビジョンシステムが有効に機能しない可能性があるのだ。

また、GNSSは精度が高くなく、干渉などに対して脆弱であるため、信頼できる代替手段とはならない。天候や道路の視界に影響されないXona Pulserは、最も過酷な条件でも堅牢で高精度の位置情報を提供できるという。

いかがだっただろうか。

2016年以来、低軌道LEOにある通信衛星イリジウムでもGNSSをバックアップするための確実なPNTサービスを提供しているし、今後、英国政府が出資するOneWebでもPNTサービスが計画されている。

将来、PNT市場はどのようになっていくだろうか。大きく変革の時期を迎えている。

参考文献

※1https://www.xonaspace.com/pr20210921
※2https://47aedb56-b7fb-4217-8689-071c1c74189a.usrfiles.com/ugd/47aedb_93a208ee2b5f421ea4be80a7c3d9bea4.pdf