水素社会。そんな言葉を読者の方々も耳にしたことがあるだろう。
水素は、燃料電池、水素発電などに活用することで、電気や熱を効率的に取り出すことができ、エネルギー源として利用してもCO2を排出しない。
その水素を、工場などで廃棄される「廃棄アルミくず(アルミニウム)」と水だけで発生させる、そんな興味深い技術を開発したというニュースが飛び込んできた。今回は、そんな興味深い話題について紹介してみたいと思う。
アルミニウムと水で水素が発生?
水素の通常の生産方法は、天然ガスや石炭、アルコールなどから水素だけを取り出すことや、アルカリ水に電気を通して水素と酸素に分解する、製鉄所や製油所、苛性ソーダなどの生産プロセスの中での副次的に発生する水素を抽出するといった方法だ。
そのため、冒頭でご紹介した、アルミニウムと水だけで水素が発生するというのは結構驚きだ。この生成方法に成功したのは福岡工業大(福工大)電気工学科の高原健爾教授の研究室で、同研究室が公開している反応式は以下のようになっている。
2Al+3H20→Al2O3+3H2
反応式をみるとそれほど複雑ではなさそうだが、アルミニウムと水で酸化アルミニウムと水素ができるというものだ。
でも、少し考えてみて欲しい。理科の実験などでアルミニウムを水に入れただけで水素が発生した記憶はあるだろうか、そんな反応は記憶にないと思う。
福工大では、工場などで部品や金型を加工後に発生し、産業廃棄物として処理されてしまうアルミニウムの廃棄くずを、特殊な装置ですりつぶし、さらに細かい微粒子に加工する。
では、なぜアルミニウムの微粒子に加工するのだろうか。
福工大によると、アルミニウムは酸素と反応しやすい性質がある。そのため、アルミニウムの表面はすぐに酸化してしまい、そのままの状態だとごく薄い酸化膜に覆われてしまうことから、アルミニウムは通常、水と反応することがないのだという。
高原研究室が加工した微粒子のアルミニウムは、粒子内に細かい亀裂があり、水がこの亀裂に沿って侵入し水分子の分解が進むことで水素が発生するという。
水素社会を実現するすごい技術!
この福工大の技術は、たったアルミニウム1gと水のみで、水素約1リットルを作ることが可能という。
廃棄物から、温暖化ガスであるCO2を排出することなく、水素を発生させることができるという環境にも配慮されたすごい技術だ。
実際にこの反応を活用して3輪自動車の走行にも成功している。
アルミニウムも水もコスト面では高価なものではない。ただ、アルミニウムを精製するには多くの電力が必要となり、アルミニウムを特殊な装置ですりつぶし、さらに細かい微粒子に加工するまでのトータルコストがこの水素発生におけるプロセスにおいてペイできるのか、という課題もこの技術にはあるのだという。
いかがだっただろうか。高原健爾教授は、1989年公開された「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」でアルミ缶などの「ごみ」を燃料に変えて走ったデロリアンのシーンを語っておられ、この研究の成果と映画を重ね合わせている。
一気に高原健爾教授のファンになってしまった。この夢のある、ユニークな技術を実用化していただきたい。