人工衛星をご覧になったことはあるだろうか。写真や映像でも構わない、思い出して欲しい。

もしかしたら金色のMLIに覆われた衛星、もしくはブラックカプトンで覆われた衛星かもしれないが、衛星の構体はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やアルミ合金などが使われている。

小型衛星、超小型衛星であれば、アルミやアクリルパネルなど低コストで宇宙に対する機械環境などに耐えうる材料が使われたりしている場合もある。これが“普通”だと思うのだが、しかし、従来にはない斬新な発想の衛星がある。

それが木材を使った衛星だ。今回はそんな木製の衛星について紹介したいと思う。

木製の衛星とは?

木製の衛星とは、その名の通り木を活用した衛星だ。この木製の衛星を手がけるのは、京都大学と住友林業。宇宙木材プロジェクトLignoStella Projectをスタートさせている。その木製の衛星の名は、「LignoSat(リグノサット)」。衛星の構体に木材を活用している衛星だ。

2023年にLignoSatを打ち上げて、2024年3月31日まで宇宙環境における木材の物性評価などを行うという。

では、なぜ京都大学と住友林業は衛星に木材を活用しようと考えたのだろうか。

まず、木材は広い温度範囲において安定した物性があるという。他にも木材は、電磁波を遮蔽せず透過する性質がある。このため、通信用のアンテナや電波を送受するさまざまなセンサなどを構体の外部に設置せずとも、衛星構体内部に設置できるというメリットがあるという。

また、スペースデブリの観点、地球環境保護の観点があるようだ。衛星が寿命を迎えた際、スペースデブリとならぬよう、大気圏に突入させ燃やすことが求められている。木材は、炭素、水素、酸素からなる天然系の高分子であることにより、大気圏に突入した際有害な物質を発生しないため、地球環境にやさしいのだ。

  • LignSat

    京都大学と住友林業が開発するLignoSat(出典:京都大学)

他にも、フィンランドのUPM Plywood、Arctic Astronautics、Huldの3社は、WISA WOODSATという木製の衛星を打ち上げる計画だ。彼らは木材に白樺を使っているという。

この衛星では、宇宙空間の過酷な温度、真空、宇宙線下での木材の挙動と耐久性に関するデータを収集する。WISA WOODSATには、ブームが取り付けられ、その先端にはカメラが設置される。

このカメラは、地球を観測するのではなく、衛星自体を撮影し、木材の状態をモニターするのだ。2021年後半にRocket LabのElectronで打ち上げる予定だという。

  • WISA WOODSA

    WISA WOODSAT(出典:UPM Plywood)

WISA WOODSATのプロトタイプに関する動画

いかがだっただろうか。衛星に木材を活用する、そんな発想をもったことは一度もない、そんなOld Spaceの宇宙エンジニアは多いはずだ。

木材は、入手性、加工のしやすさ、価格面など宇宙用の材料に比べればメリットが多いだろう。

実際に木材が宇宙品質として耐えうるものなのか、そのあたりに興味がある。今後、原子状酸素や放射線に関する耐性などを含めさまざまな評価が地上や宇宙空間で実施されていくことだろう。

近い将来、衛星のみならず、さまざまな宇宙の構造物の構体は木材が主流、そんな未来も否定できない。