核融合炉は、いつ実現するのだろうか。正直なところ課題はまだ多い。

以前、Amazonの創業者ジェフ・ベゾスも出資するGeneral FusionというMagnetized Target Fusion(MTF)という方式で核融合を実現しようとしている核融合ベンチャーを紹介した

今回は、別のユニークな核融合ベンチャーを紹介したい。彼らの名は、Helion。FRC(磁場反転配位)プラズマを衝突させることで核融合反応を起こす。そして、タービンを必要とせず発電することができるというのだ。Helionは、“普通”の核融合とは少し違った角度で核融合を捉えている印象がある。今回はそんなHelionについて紹介したいと思う。

Helionがもつ独特な視点とは?

Helionとは、米国の核融合ベンチャー。Helionのホームページに「Frequently Asked Questions」というページがある。このサイトに以下のQ&Aがあるので紹介したい。

Q.What is different about Helion's approach? (Helionの核融合実現に関するアプローチは他と何がちがうか?)

A.The founders of Helion believe that fusion isn’t a fundamental physical problem, but an engineering problem that will be solved by building, testing, and iterating fusion systems and subsystems. (Helionの創設者らは、核融合は基本的な物理的な問題ではなく、核融合システムとサブシステムを構築すること、テストすること、反復することで解決される工学的な問題であると考えている)

核融合研究者らは、この言葉を聞いてどの感じるだろうか。とてもインパクトがある言葉だ。例えば、トカマク型やヘリカル型などの核融合プラズマは、さまざまなモードのプラズマ不安定性が発生し、これがプラズマの閉じ込めを邪魔している1つの要因になっている。このような物理的な問題を解決するよりは、工学的なアプローチで核融合を実現することができる、そんなふうにも読み取ることができる。

HelionのTRENTAとは?

Helionの6番目に製造されたプロトタイプTRENTAのイメージが以下の図に示されている。ダンベルのような形状だ。燃料は、重水素とHe3(ヘリウム3)が使われる。まずダンベル型の両端の部分で重水素とHe3のプラズマが生成され、温度として9kevのプラズマ条件まで加熱される。

そしてFRC(Field-Reversed Configuration)という磁場反転配位の磁場によってプラズマを閉じ込める。このプラズマは、両端から中心に向かって磁場を使って加速させ中央部分で衝突させるのだ。加速される速度は、時速100万マイル、時速約161万km。中央部で衝突後、核融合反応温度に達するまで強力な磁場(10テスラ)によってさらに圧縮する。そして核融合反応に達するとプラズマが膨張するという。この際のプラズマは1ms(ミリ秒)の間、磁場に閉じ込められているという。

  • Helionの6番目に製造されたプロトタイプTRENTAキャプ

    Helionの6番目に製造されたプロトタイプTRENTA(出典:Helion)

タービンも回さないHelionの発電方法とは?

Helionは、核融合プラズマから熱を回収しタービンを回して電気を発生させることは考えていないようだ。中央部で衝突されたプラズマが膨張する際、当然磁場が変化する。その際の磁場の変化によってファラデーの法則に従って電流が誘導される。その電流を直接回収するというのだ。

そして、He3の燃料も「Self-supplied helium-3 fuel cycle」という重水素を核融合の理想的な燃料であるHe3に変換するシステムも開発し特許を取得している。Helionは、工業プロセスでHe3を製造した最初の企業でもあるという。

  • 概要図

    「Self-supplied helium-3 fuel cycle」の概要図(出典:Helion)

この6番目のプロトタイプのTRENTAは、ほぼ毎日稼働させこれまでに約10,000の高出力パルスを完了、16か月間継続して動作していたという。そしてこのTRENTAによって1億度のプラズマ温度に到達した最初の民間企業になったと報じられている。

ちなみに、民間企業で初めて1億度のプラズマ温度に達したと公言している企業は、他にもTokamak Energyなどがある。おそらく装置、プラズマ配位などの違いによると考えられる。

いかがだっただろうか。Helionの装置は、プラズマの膨張の際の磁場の変化で直接電気を回収している。この手法で、現在までに95%のエネルギー効率に成功しているというのだ。

少し冒頭で紹介したHelionのQAに戻りたい。Helionによれば、核融合は基本的な物理的な問題ではなく、工学的なアプローチで解決できるという。Helionの装置では、1ms(ミリ秒)という閉じ込め時間で核融合反応を起こし、その際のプラズマの膨張時のファラデー電流で発電している。従来にはない、Helionの独特でユニークな視点に魅力を感じる。