2023年3月13日、英・ブリストル大学は、ウシの糞から得られるセルロースが、サステナブルな材料として利用できる可能性があると発表した。では、この牛糞由来のセルロースはどんな未来を実現しうるるのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
家畜の糞から生分解性素材を得られる未来へ
戦後から現在までの我々の生活において、プラスチックは、日常と切っても切り離せないものとなっている。だがこの身近な素材は、化石燃料である石油由来かつ非生分解性のため、自然界に大きなダメージを与えてきたことは間違いない。また、プラスチックの製造から処分までの過程では、CO2などの温室効果ガスを大気中へと放出してしまっている。
これらの問題点を解決するために、生分解性であるバイオマス由来のプラスチックが検討されるのは、自然な流れだろう。しかしこうした流れから開発されたバイオマス由来プラスチックの中には、化学修飾や複合材料への組み込みを行っているため、厳密には生分解性とは言えないものもあるのだという。
そこでブリストル大学の研究チームは、生分解性プラスチック原料の1つとして、牛などの家畜の糞に着目した。牛糞については、エネルギー源や熱源としての利用に向けて、その機能に注目が集まっており、エネルギー分野や肥料分野で発表された論文数もかなり増えている。しかし、ブリストル大学のようにプラスチック素材として検討された論文数は極端に少なく、大きな進展は見られていないという。
では、いったいどのような方法で家畜の糞からプラスチック素材を生み出すのか。研究チームが重要視したのは、家畜の糞に多く含まれるセルロースだった。ウシ、ヒツジ、ヤギなどの反芻動物は、リグノセルロース物質を分解するために発達した消化器官を持っていて、摂食した植物を消化するだけで、素材として活用できるセルロースを生み出すことができるのだ。
こうして得られたセルロースの利用方法については、最も一般的なものとして、セルロースを他の成分と組み合わせることで、プラスチックや紙、あるいはコンクリートなどの複合材料が挙げられる。家畜の糞由来の材料を使っているため、生分解性の材料である上、その性能の面でも魅力的なものだという。
セルロースは、ポリマー・金属・セラミックなどの材料と組み合わせることで、抗菌剤・抗酸化剤・センサ・電磁シールドデバイス・・燃料電池・生物医学用途など、さまざまな領域での活用が可能。この材料を牛糞などから得られることは、今後の大きなポテンシャルを秘めているとしている。
なお今回の研究成果は、科学誌「Biological Macromolecules」に掲載されている。
いかがだっただろうか。今回取り上げたような、牛糞由来セルロースのマテリアル分野への応用は、これまでほとんど見落とされていた。なかなか気づかれていなかった発見にたどり着いたブリストル大学のこの発見に、敬意を表したい。