2023年2月27日、マサチューセッツ工科大学(MIT)は、X線で透視しているかのような視野を実現したAR(拡張現実)ヘッドセットを開発したと発表した。では、この物体を透視できるように感じるARヘッドセットとはどのようなもので、どのような用途で役に立つのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
フレキシブルアンテナとRFIDを活用した透視技術とは?
まず、MITが開発したARヘッドセットの用途について説明したい。無線信号とARの技術を活用したこのヘッドセットは、目に見えない場所に隠れたアイテムを見つけたいとき、もしくは正確にアイテムを検索したいときなどに役立つデバイスだ。例えば倉庫のような場所で、箱に入ったアイテムをまるで透視したかのように箱を開けずに見つけることができる。
このヘッドセットは、実際にX線を放出して物体内部を可視化するものではない。目に見えない場所に隠れているものを、"あたかもX線で透視するかのように"見つけることができるという意味だ。
では、このARヘッドセットの構成や仕組みを見ていこう。下図をご覧いただきたい。マイクロソフトのMRデバイス「HoloLens」はご存じだろうか。今回の技術では、そのHoloLensの視野部分に1枚の黄色いフィルム状のものを貼り付けることで、X線での透視のような視野を実現する。このフィルムは、フレキシブル素材に実装されたアンテナで、レンズと組み合わせることで利用が可能となる。
一方で、透視のような発見を実現するためには、探したいアイテムにRFIDタグをつけておく必要がある。RFIDタグ自体はとても安価で、電池も必要としないので、準備のハードルはそこまで高くない。そしてこれで、ヘッドセットの利用環境は完成する。
使用方法は以下の通りだ。まずはヘッドセットを装着し、AR上で見つけたいアイテムを選択する。もちろんこの操作は非接触で行われる。ヘッドセットを装着した状態で目当てのアイテムに近づくと、ヘッドセットから取り付けられたRFIDタグへと電力が無線で供給される。そしてそのRFIDタグからヘッドセットに向けて、無線で応答するのだ。なお、この通信技術では、ダンボール箱や梱包などの遮蔽物が一定量あっても問題なく使用できるという。
検知した後、ヘッドセットは仮想3Dマップを作成し、ユーザーをそのアイテムの位置まで導く。そしてユーザーは、箱の中などから当該アイテムを取り出すというものだ。
イメージ映像によると、当該アイテムが格納されたダンボールまでたどり着くと、"Object Found"と表示され、HoloLensのハンドトラッキング技術によって本当に正しいアイテムかどうかも判断できるという。
定量的な話をすると、対象のアイテムまでは10cm未満の誤差で誘導することができ、また98.9%という高い確率で、正しいアイテムを見つけることができると示されたというのだ。
いかがだろうか。MITはまた、夢やSFのようなテクノロジーを開発した。もちろん、アイテム側にRFIDタグをあらかじめつけておかなければならないという条件はあるが、このARヘッドセットは、個人の探し物のレベルから、製造業や小売業などにおける工場内・倉庫内での作業を効率的にするアイテムに違いない。