ウミトロンをご存知だろうか? 水産養殖×テクノロジーで人類が直面する食糧問題や環境問題の解決に取り組むベンチャーだ。
彼らは、ハイエンドで斬新なソリューションを提供している。とても興味深い。そんな中、CTOを務める岡本拓磨氏にお話を伺う機会を得ることができた。その中で、すごいテクノロジーはもちろんのこと、水産事業に関する彼らの熱い想いや優しさなどを知ることができた。
今回は、そんなウミトロンがなぜ水産養殖を手がけているのか、どのような未来を目指しているのかそんな話題について紹介したいと思う。
ウミトロンとは?
ウミトロンは、水産養殖のマーケットで活躍するベンチャーで、ホームページでも”個性豊かな”という表現があるが、実にさまざまな専門性をもったメンバーで構成されている。
しかしながら、経営陣に水産養殖業界の出身者はいない。実はCEOの藤原謙氏は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の出身。人工衛星の姿勢制御系のプロと伺った。その後、三井物産においても人工衛星を活用した農業ビジネスにも従事していたという。
では、なぜ藤原氏は水産養殖のベンチャーを立ち上げたのだろうか。
藤原氏はMBAを取得するなど、グローバルな視点でビジネスを“目利き”する才能に長けているようだ。そんな中、水産養殖のマーケットがグローバルでも成長しているという現状を見て、自身の強みである人工衛星の知見が活かせると直感したという。
水産養殖の課題を的確に解決するハイエンドなソリューションとは?
では、実際にどのようなソリューションを手がけているのだろうか。
ソリューション開発は、CTOの岡本拓磨氏がトップとして主導している。岡本氏は、グリー出身。ソーシャルゲームプラットフォームの開発の経験があり、その後メタップスにてアプリや動画の解析システムのネイティブアプリ・SDK・サーバーサイドを開発した実績を有する。
お話を伺っているなかで、機械学習や画像解析に関する高い専門性、強いマインドそしてリーダシップを感じた。
岡本氏に水産養殖の課題について伺うと、実は、水産養殖における課題の1つに餌代が高いというものがあるという。
魚種にも依存するが、全体コストのうち、6~7割が餌代らしい。
その理由は、水産養殖の餌は天然資源としての魚を加工したもので、漁獲量が減っているため餌代が高騰しているという背景があるというのだ。つまり、水産業全体としての持続可能性の必要性、そして餌を無駄なく大切に扱うべき、という点が重要なのだ。
また、従来から自動給餌機を活用して養殖を実施している事業者は存在するという。指定した時間に餌を落とすということをあらかじめ設定できるものだ。人が介在しないオペレーションができるという点でメリットはあるが、本当に養殖魚が餌を食べているのかが確認できないなどのデメリットもあるという。
ウミトロンは、このような給餌の課題を解決すべく、「UMITRON CELL」というスマート給餌機などのソリューションを開発している。遠隔で指定した時刻に給餌できるのはもちろんのこと、水中のカメラで養殖魚の様子をリアルタイムで確認することもできるのだ。実際に、ペルー・チチカカ湖や愛媛県愛南町などでUMITRON CELLは稼働中だ。
同システムは、水中で養殖魚が餌を食べている否かの様子を撮影しているだけではない。 UMITRON LENSというスマート魚体測定システムを開発し、小型のステレオカメラとAIを活用して、水中の魚のサイズを自動計測することができるのだ。クラウドとデータ連携することで、魚の成長確認が容易にできるのだ。これにより、餌を食べているのか、どれくらい成長したのか、出荷のタイミングなどが、“勘”に頼らずデータで把握することが可能となるのだ。
ウミトロンの強みは、水産養殖にかかる豊富なデータ量!
ウミトロンは、魚の食欲をリアルタイムに判定できるテクノロジーも開発している。それが、「UMITRON FAI(Fish Appetite Index)」。機械学習を活用した魚の餌食いをリアルタイムで自動評価する世界初のアルゴリズムという。
UMITRON FAIによって無駄餌の早期発見や給餌を止めるべき判断などが指標によって判断でき、UMITRON CELLと連携させることで、給餌の自動最適化を図ることができるという。
そして、衛星データを活用した「UMITRON PULSE」。スマートフォン上で海水温、クロロフィル、溶存酸素、塩分濃度、波高など、水産養殖において重要な海洋環境データを高解像度で提供するWebサービスだ。
養殖事業者が養殖魚の生育管理、給餌管理、リスク管理などに必要となる海洋環境データを簡単に無料でチェックできるようになるのだ。Android版、iOS版もリリースされており、誰でも利用することが可能だ。
これらは、水産養殖に関するデータを豊富に蓄積しないとできないことばかりだ。このように、ウミトロンは、AI、画像解析技術、IoTなどの強みを水産養殖に活かすことで、水産養殖を手がける事業者に、より良いオペレーションをしてもらいたい、的確な意思決定をしてもらいたい、そんな思いを届けようと日々尽力している。
ちなみにIoT や機械学習を使ったサービス開発には、アマゾン ウェブ サービス (AWS)を使用しており、今後は各プロダクト間のデータの相互利用といった連携を強めていく予定だという。
いかがだっただろうか。今回、ウミトロンCTOの岡本拓磨氏にお話を伺った。完全に水産養殖に関するイメージが変わってしまった。
課題指向なビジネス、そしてその課題をハイエンドなテクノロジーで解決する取り組み、さらには、持続可能な水産養殖の実現を目指しているという強い想い、これらを強く感じた。
この“持続可能”という表現はとても奥が深い。ウミトロンだけが成功するのではなく、水産業全体として持続可能な未来を実現したい、という熱く強い想い、そして優しさを感じた。
他にも水産に関わる養殖事業者、消費者も含めたサプライチェーン全体のプレイヤーに未来の海の豊かさを考えてもらい行動してもらう活動として「うみとさち」も実施している。今回の記事で皆さんにウミトロンのすごさ、熱い思い、優しさを届けられたら幸いだ。