2023年2月10日、Amazon創業者のジェフベゾスが設立し、宇宙旅行の実現を目指す宇宙開発企業として有名なBlue Origin(ブルーオリジン)が、レゴリスの模擬物質から太陽電池を製造する技術「Blue Alchemist」を開発したと報じている。では、ブルーオリジンが製造に成功した太陽電池とはどのようなものだろうか。そして、その狙いは何だろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

  • ブルーオリジンが、月面レゴリスの模擬物質から太陽電池を製造する方法を開発した。宇宙開発にとって大きな進歩になるかもしれないその技術について見てみよう

    ブルーオリジンが、月面レゴリスの模擬物質から太陽電池を製造する方法を開発した。宇宙開発にとって大きな進歩になるかもしれないその技術について見てみよう(出典:ブルーオリジン)

月面レゴリスから太陽電池を製造する方法とは?

今回"月の砂"と呼ばれるレゴリスをもとに太陽電池を製造したブルーオリジンは、これまでにも月面のレゴリスを模した物質から太陽電池や送電線を製造してきた。そして、今回発表された太陽電池は実用性を兼ねたプロトタイプだという。

月面でのさまざまな計画において、人が長期滞在するとなると、豊富な電力や資源が必要になることは間違いない。しかし、地球から月へと物資を運ぶだけでも、地球上の移動に比べると莫大な時間や労力、コストがかかるだろう。そこで、月に無尽蔵にあるレゴリスを効率的に活用することで、電力を確保できないかと考えたのがアイデアの出発点とのことだ。

では、Blue Alchemistとはどういった製造方法なのか。まずレゴリス模擬物質に電流を流すことで、1600℃以上の超高温にして溶融しする。そしてその中から鉄(Fe)・シリコン(Si)・アルミニウム(Al)を生成するというものだ。ブルーオリジンによると、このプロセスによって、太陽電池の材料として使用できる純度99.9%のシリコンを得ることができるというのだ。また、このプロセスでは、各金属に結合している酸素も副産物として得られるようだ。

普通の太陽電池は、有害で爆発性のある大量の化学物質と大型装置を必要とするのだが、Blue Originの製造手法は、非常にシンプルで大型装置を必要としない。さらに、CO2を排出せず、水も必要としないというメリットも強調されている。

また驚くべきなのは、太陽電池のカバーガラスもこのプロセスによって製造可能だということだ。月面は、放射線や紫外線が強く隕石衝突のリスクも大きい過酷な環境下であり、もしカバーガラスがなければ、太陽電池の寿命は短い。しかし、副産物でできたカバーガラスがあることで、大きく寿命を延ばすことができるという。

いかがだっただろうか。ブルーオリジンは、現在進行中のアルテミス計画へ意欲的に参画しようとしている。そのプロジェクトの1つに、このレゴリスを使った太陽電池製造が検討されているのだろう。その証拠として、現にブルーオリジンは、次のように発表している。

"Blue Origin's goal of producing solar power using only lunar resources is aligned with NASA's highest priority Moon-to-Mars infrastructure development objective."(月の資源だけを使って太陽光発電を行うというブルーオリジンの目標は、米国航空宇宙局(NASA)が最優先事項として掲げる、月から火星へ向かうインフラ開発という目標と合致している。)

月を拠点として火星での開発にまで、広範囲に及ぶすごいテクノロジーだ。

  • 月面のレゴリスから太陽電池を製造することができれば、宇宙空間でも電力を潤沢に確保することができるようになる。月を中継地とした火星開発計画にも、大きな発展をもたらすかもしれない

    月面のレゴリスから太陽電池を製造することができれば、宇宙空間でも電力を潤沢に確保することができるようになる。月を中継地とした火星開発計画にも、大きな発展をもたらすかもしれない(出典:ブルーオリジン)