2023年1月31日、トロント大学は、イカからヒントを得た"流動窓"を開発したというプレスリリースを発表した。では、この流動窓とはどのような仕組みのものだろうか。そして何に使われるのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
皮膚の色が変わるイカから着想した「性質が変わる窓」
以下は、トロント大学が公開している流動窓の構造図だ。この窓は多層構造になっていて、各層で異なる流体を独立して注入している。その流体は、完全に日光を吸収するもの、特定の波長のみを反射するもの、散乱させるもの、赤外領域の波長の光だけを吸収するものと、それぞれ機能が分かれている。
この窓の特性は、目的に合わせてその性質を変えられる点。日光を遮断したい時には、完全に日光を吸収する流体を注入すればいいし、暖かくしたいのであれば、赤外領域を吸収する流体を流すと効果を発揮する。また、特定の光の波長を反射・散乱させることで、室内の照明が鮮やかになることもあるだろう。このような機能を持たせることで、建物内の冷暖房や照明による消費エネルギーを、年間で約25%節約できるという。
では、なぜトロント大学の研究チームは、この多層構造の"流動窓"を着想できたのだろうか。そのヒントとなったのがイカだ。イカの皮膚は、周囲の環境や脅威などによって動的に色が変化する。その変化の仕組みはというと、光の吸収を制御する「クロマトフォア」、反射と虹色に寄与する「イリドフォア」など、特殊な器官が重なった層上の皮膚になっているというのだ。このイカの皮膚構造からヒントを得た彼らは、温度や照明をコントロールできればエネルギーの削減につながると考え、今回のような多層構造の流体システムの開発に至ったのだ。
なお、この研究成果は、2023年1月30日に『PNAS』に掲載されている。
いかがだったろうか。研究チームが次に目指すのは、人工知能を用いて、窓による冷暖房や日光強度の調整をできるようにすることだという。実現すれば、とてもインテリジェントな窓になる。そして、生物を模倣するバイオミメティック研究のとても良い事例なのではないだろうか。