2023年1月6日、プリンストン大学は、太平洋において酸素濃度が低い水域である酸素極小地帯「OMZ(oxygen minimum zones)」が拡大していることを発見したことを発表した。ではなぜ、太平洋でOMZが拡大しているのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

太平洋に酸素極小地帯「OMZ」が拡大する理由とは?

下の図は、2022年8月31日にプリンストン大学が、太平洋のOMZは過去の温暖な時期に縮小したことがあることを発見したというプレスリリースと共に公開した図だ。ここでは、メキシコの太平洋側から日付変更線あたりに向けて、赤色が広がっていることがお分かりいただけるだろう。この赤色は、水深350mにおける酸素濃度からみたOMZを示している。ちなみにこの図は、海洋堆積物である有孔虫からの窒素同位体を調べることで判明する、過去の海洋環境に基づいて作成されている。

  • 2022年8月に発表された水深350mにおけるOMZの分布図

    2022年8月に発表された水深350mにおけるOMZの分布図(出典:プリンストン大学)

上図はOMZを2次元的に表現したものであるが、今回プリンストン大学は、3Dモデルを活用することで作成した3次元アニメーション動画を公開している。この映像からも、非常に巨大なOMZであることがわかるだろう。

これまでの気象モデルでは、OMZの拡大や縮小を予測することができなかったという。その理由には、海洋循環によって運ばれてくる酸素と海洋生物が使用する酸素の相反関係によってOMZが生じるということが、考慮されていないことがあった。しかし、今回プリンストン大学では、the Coupled Model Intercomparison Project 6(CMIP6)という最新のモデルを活用。これによって、OMZが単なる空間ではなく、たまねぎのように層が重なった構造であることも判明。そしてこのモデルでは、温室効果ガスの大量排出が続けば、太平洋のOMZは2100年までに600万~800万km3、つまり世界の海の体積の約0.6%にまで拡大すると予想されている。

もしOMZが拡大すれば、海洋の生態系は大きな影響を受けるという。例えば、高額で取引される貴重な海産物であるマグロやカニなどがOMZに留まれば、生産も大打撃を受けるだろう。これらの生物は、酸素の多い海域に移動しない限り、餌を食べ成長し、繁殖することができなくなってしまうという。

では、なぜこのように、太平洋に溶け込んでいるはずの酸素の濃度が低下することがあるのだろうか。それは、地球温暖化に起因しているという。平易に表現すると、海水の温度が上昇すると、そこに溶け込む酸素の量が低下するのだ。しかし、温暖化ガスの排出量を持続的かつ強制力を持って減らすことができれば、将来的にOMZを縮小させることができる可能性もあるという。

ちなみに、この研究成果は2022年11月23日に「AGU Advances」に掲載されている。

  • OMZに関する同研究を率いたプリンストン大学のLaure Resplandy氏

    OMZに関する同研究を率いたプリンストン大学のLaure Resplandy氏(出典:プリンストン大学)