2023年1月4日、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)は、空気中の水分から水素を作ることができる、気相ベースの光電気化学デバイスを開発したというニュースリリースを発表した。では、この気相ベースの光電気化学デバイスとはどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

  • EPFLが開発した気相ベースの光電気化学デバイスとは、いったいどのようなものなのだろうか

    EPFLが開発した気相ベースの光電気化学デバイスとは、いったいどのようなものなのだろうか(出典:EPFL)

気相ベースの光電気化学デバイスとは?

光電気化学デバイスとは、光触媒を用いて水を酸素と水素に分解し、分離膜でそれぞれに分ける技術のことを指している。人工光合成やPEC(PhotoElectroChemical)などとも呼ばれるテクノロジーだ。

では、今回EPFLが開発した光電気化学デバイスとはどのようなものだろうか。それは、上述した原理を用いながら、従来から可能だった液体ではなく、空気中にある水から水素を発生させるというものだ。彼らはこの技術を"a solar-powered artificial leaf(太陽光発電人工葉)"と表現している。実際の植物は、空気中のCO2と土壌の水、そして太陽光のエネルギーを使って糖とデンプンを作り、そして酸素を放出する。これが光合成だ。今回EPFLで開発された技術もそれに類似しており、空気と太陽光から水素ガスを生成し、それをエネルギー源とすることができる。

以下の図をご覧いただきたい。このデバイスの鍵となるのが、左図中央の"Coated TPCS"だ。これは、石英繊維でできたウェハをフッ素が塗られた酸化スズの透明な薄膜でコーティングしたもので、いわゆる光触媒的な役割を果たす。そして水蒸気を含む湿った空気を小型のチャンバーに流し込み、そこに太陽光が照射されることでCoated TPCSが水素を発生するという仕組みだ。

  • 光電気化学デバイスの機構説明と模式図

    光電気化学デバイスの機構説明と模式図(出典:『Advanced Materials』)

またEPFLは、気相ベースの光電気化学デバイスの動画を公開している。ぜひご覧いただきたい。

EPFLが開発した光電気化学デバイスの動画はこちら(出典:EPFL)

現在、EPFLが開発した気相ベース光電気化学デバイスは理論上、水素の最大変換効率が12%ほどだという。ちなみに、従来の一般的な液相ベースの光電気化学デバイスでは、19%の変換効率が実証されている。このような気相ベースの光電気化学デバイスはスケーラブルであり、大型のプラントにもなり得るというから、期待は大きいのではないだろうか。

なお同研究成果は、2023年1月4日の『Advanced Materials』に掲載されている。