2022年12月12日、コーネル大学医学部(Weill Cornell Medicine)は、国際宇宙ステーション(ISS)で発見された細菌が、薬剤耐性を高めるように進化していると報じている。では、宇宙環境の方が薬剤耐性が高まる細菌とはどのようなものなのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
宇宙で薬剤耐性を高める細菌「Acinetobacter pittii」
1998年の建設以降、ISSに向けては実に200回を超える輸送が実施されている。その際には人間や物資とともに、微生物も宇宙へと運ばれる。そして、そのような微生物が宇宙という特殊な環境でどのように進化していくのかを確かめることは、とても重要だという。
米国航空宇宙局(NASA)は、Microbial Trackingと題して、ISS内部の微生物や細菌に関する調査研究を実施している。そして、同研究で発見されたAcinetobacter pittii(A. pittii)という細菌について、コーネル大学医学部らの研究チームが研究を開始した。
研究チームは、ISSで発見されたA. pittiiの20のゲノムと、地球上に存在するA. pittiiの291のゲノムを比較。すると、ISSで発見された同細菌は、薬剤耐性に関連する特定の遺伝子変化を持たないにもかかわらず、抗菌セファロスポリンに対してより耐性があることを発見したという。また、ISSで発見されたA. pittiiに、他の遺伝子を抑制またはオフにする転写調節因子であるLexAタンパク質が含まれていることも発見したのだ。
これは実に不思議な現象で、ISSでは、特に薬剤にさらしているわけではないこのA. pittiiという細菌が、特殊な耐性を持つように進化しているというのだ。
なお、この研究成果は2022年12月12日に『Microbiome』に掲載されている。
いかがだっただろうか。この結果に驚く読者も多いのではないだろうか。実は、NASAが実施しているMicrobial Trackingでは、このような微生物や細菌のほかに、ウィルスも発見されている。ウィルスなどの特殊な宇宙環境に適応できるような進化が確認される日も、そう遠くはないのではないだろうか。