2022年12月19日、シンガポール国立大学(NUS)とシンガポール国立大学保健機構(NUHS)は、血液中の血漿におけるエルゴチオネインの濃度が低下していると、認知障害および認知症のリスクが高くなることを明らかにしたと発表した。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
認知障害と認知症の血液バイオマーカーとは?
今回の成果を発表したのは、NUS Yong Loo Lin School of MedicineのBarry Halliwell教授、NUHS Memory, Ageing, and Cognition CentreのChristopher Chen准教授とDr. Mitchell Lai氏らによる研究チーム。ちなみにNUHSは、シンガポール保健省の傘下であるMOHホールディングスの組織で、日本とも繋がりが深い。神奈川県が2016年にMOUを締結し、県内外のライフサイエンス企業を募ってNUHSを訪問するなど、人材育成や連携協力を実施している。
エルゴチオネインについて、どんなものかご存知だろうか。エルゴチオネインは、きのこなどの菌類や一部の細菌だけが作ることができるアミノ酸で、ヒトにとっては抗酸化作用や紫外線対策などで効果を発揮するという。
Barry Halliwell教授らは2016年、軽度の認知障害がある患者は、このエルゴチオネインの血中濃度が低いことを発見した。すでにシンガポールの高齢者のキノコ類の消費量増加と、認知症・認知障害のリスクの低下の関連性についてもわかっていたというが、当時はエルゴチオネインの血中濃度によって認知障害や認知症の発症を予測することはできていなかった。
そこで彼らは実証を計画。470名の高齢者に参加してもらい、エルゴチオネインの血中濃度レベルや時間の経過と、認知症・認知障害発症の間にある関係について調査したという。そしてその結果、認知症と認知障害は、エルゴチオネインの血中濃度が低いと発症リスクが高くなること、またエルゴチオネインの血中濃度が低いと認知能力の低下が加速度的に進行していくことを解明。さらにMRIでの調査から、大脳皮質の厚さの減少・海馬の体積の減少・白質の高信号化にも影響することなどを明らかにしている。
なおこの研究成果は、2022年8月30日に科学雑誌『Antioxidants』に掲載されている。
いかがだっただろうか。認知症や認知障害の治療には、早期発見が重要だという。このように、エルゴチオネインの血中濃度が低いと認知障害、認知症の発症リスクが高まることが明らかになったことで、早期発見と治療に役立つことがわかる。きのこを食べることは脳にいいと言えるかもしれない。