シンガポール国立大学は、コストを低減した新しいがん検査方法を開発している。では、この低コストながん検査方法とはどのようなものだろうか。どのような点が優れているのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
新しいがん検査法「Heatrich-BS assay」とは?
シンガポール国立大学が開発している新たな検査方法は、一言でいうと、がん特有のサインがあるゲノムだけを抽出するために、患者の血液サンプルを加熱し配列決定するというものだ。
もう少し詳しく説明しよう。ヒトのDNAは、アデニン (A)、チミン (T)、グアニン (G)、シトシン (C)の4種類の塩基をもつヌクレオチドで構成されている。そしてその中で、CGという配列が集中して存在する「CpGアイランド」という領域は、がんが集中する傾向があるというのだ。ただ、このCpGアイランドはゲノムの1%ほどしか占有していないという。裏を返せば、このたった1%ほどを調査すれば、ほとんどのがんを検査できるということになる。しかし、そのわずか1%ほどのCpGアイランドを調査することは簡単なのだろうか。
ある日、シンガポール国立大学の研究員の一人が、偶然サンプルを加熱してしまったとのこと。すると、熱によってゲノムが壊れてしまったのだが、CpGアイランドの部分はそのまま何の影響も受けず残っていることを、偶然発見したのだという。つまり、加熱後のサンプルを調べればCpGアイランドを効率的に調査することが可能になることを発見したのだ。
この研究成果は、2022年9月9日に科学雑誌Science Advancesに発表され、その特許も申請しているという。
いかがだったろうか。現在のがんの検査方法は、感度が不足していたり、高額だったりと課題がある。従来方法では、リキッドバイオプシーとして知られる血液サンプルを分析し、サンプル内のすべての遺伝情報にふるいをかけて、すべてのゲノムの配列を決定しなければならず、費用と時間がかかってしまうのだ。
この新しいがん検査方法にかかる費用は、たった50シンガポールほど(日本円で5000円ほど)だという。これは従来に比べて手ごろな価格帯であるため、定期的な検査に適していて、がんの早期発見に大きく貢献することが期待できる。シンガポール国立大学は、このがん検査方法の市場投入のために、新しいパートナーを模索しているとのことだ。