2022年12月8日、東芝などは、量子暗号通信技術および秘密分散技術を活用した量子セキュリティ技術と個人認証技術を連携させて、多数の個人のゲノムデータを複数拠点に分散保管し、医療や健康管理に活用する個別化ヘルスケアシステムを構築・実証したというプレスリリースを発表した。では、この個別化ヘルスケアシステムとは、どのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
量子暗号通信技術を活用した個別化ヘルスケアシステムとは?
東芝、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、東北大学病院、情報通信研究機構(NICT)は、量子暗号通信技術および秘密分散技術を活用した量子セキュリティ技術と個人認証技術を連携させて、多数の個人ゲノムデータを複数拠点に分散保管し、医療や健康管理に活用する個別化ヘルスケアシステムを世界で初めて構築したと発表した。
最初に「個別ヘルスケアシステム」について説明をしたい。これは、個人のゲノムデータなどを生活習慣などの因子と共に解析することで、 病気の罹患リスクを個人ごとに計算し最適化する健康リスク管理のことだ。
近年、ゲノムデータの解析技術が著しく進展している。それにより、病気の種類や年齢・性別による一律的な治療が行われてきたさまざまな病気の罹患について、個人に最適化された治療へと変革しつつある。
この変革において、ゲノムデータ解析技術の発展も重要だが、それと同時に、個人のゲノムデータや健康データを安全に伝送・保管して利用するセキュリティ技術が必要不可欠だ。しかもゲノムデータは、ある条件を満たすと改正個人情報保護法において個人識別符号に位置付けられ、一度漏洩してしまうと長期にわたるリスクに発展する可能性も否定できない。
そこで東芝などは2021年7月、量子セキュリティ技術を活用した「データ分散保管技術」を開発。大規模ゲノム解析データを複数拠点に分散してバックアップ保管した後に復元する実証実験を実施し、世界で初めて成功したとする。しかしこの実証においては、数多くの個人ゲノムデータを個々に取り扱うことが難しく、また「量子暗号技術」と「秘密分散技術」を独立して実装・運用する大規模システムとしての、"統一的"な運用が困難であるという課題があったという。
そこで彼らは今般、量子暗号・秘密分散・個人認証を統一的に管理運用するためのプラットフォーム「統合鍵管理システム」と、各分散拠点の量子暗号鍵の残量情報からシェアを保管する最適な拠点を決定し、個人IDと関連付けて保持することができる「シェア制御システム」を開発。ゲノムデータの安全な一括保管・復元に加え、多くの個人データを分散保管し、個人認証と連携して必要時に復元するユースケースの実証に取り組んだのだ。そして、先述のデータ分散保管技術に今回開発した2つのシステムとを連携させることで、個別化ヘルスケアシステムを構築したのだ。
「個別化ヘルスケアシステム」では、個人のゲノムデータのシェアの利用にマイナンバーカードによる認証を組み入れ、カードを保有する本人の利用許諾がない限り医療拠点においてもゲノム解析データの復元ができず、情報流出が起こらない仕組みを実現した。さらに、このシステムでは拠点の一部が災害などでデータを喪失したとしても、他の拠点で格納しているシェアからデータを復元することが可能だという。
いかがだっただろうか。病気に対して従来から行われてきた年齢・性別による一律的な治療から、個人ベースに最適化されたものへと変革しつつある今日。それには、将来にわたって安全で盗聴の脅威のないさまざまな個人データの漏洩・ 改ざん・喪失を防ぐ技術が構築されることが重要だ。それに加え、いつでも個人認証と連携することで復号・復元して個人データを活用することが可能になることも必要不可欠なのだ。医学の発展とともにこのような堅牢で緻密なセキュアな技術の発展も非常に重要なのだと気付かされる、素晴らしい研究成果だ。