2022年12月1日、カリフォルニア工科大学は、脳内血流の変化の画像化・がん組織の検出・個々のがん細胞の識別が可能なPAM(光音響顕微鏡)技術を開発したというプレスリリースを発表した。では、この新技術は、どのような点がすごいのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

針状ビーム光音響顕微鏡(NB-PAM)のすごさとは?

カリフォルニア工科大学のLihong Wang教授らの研究チームは、脳内血流の変化の画像化・がん組織の検出・個々のがん細胞の識別が可能なPAM技術の開発を発表した。この技術は、"Needle-shaped beam photoacoustic microscopy"といい、略称は「NB-PAM」。日本語に直訳すると、針状ビーム光音響顕微鏡となるだろうか。

では、このNB-PAMとはどのような技術なのか。ではその前に、PAMについておさらいしたい。PAM(光音響顕微鏡)での観察では、まず光源から光を周期的に明滅して、試料に照射する。すると、光エネルギーを吸収した試料の分子は熱を放出する。そして、その熱による体積膨張によって発生する音響波を受けて、組織を画像化するのだ。PAMは主に、生体組織や材料など内部構造の観察に用いられる。

そしてNB-PAMは、回折光学素子(DOE)を使う点が特徴だ。DOEは小さなガラス板のようなものだが、表面に正確なパターンが刻まれた溶融石英だ。このDOEに刻まれたパターンは光ビームを長くて狭い形状に変更するため、より広範囲の深度にある対象物を鮮明に画像化することが可能なのだ。

  • NB-PAMで用いられる回折光学素子 (DOE)

    NB-PAMで用いられる回折光学素子 (DOE)(出典:カリフォルニア工科大学)

この新技術は、どのような点がすごいのだろうか。以下の定性的な理解に役立つ概要図をご覧いただきたい。従来のPAM(Traditional PAM)では、レーザの焦点に近いオブジェクトのみが鮮明に画像化される。一方のNB-PAMはビームが長くて狭いため、より広範な深度にある対象物を鮮明に画像化することが可能だ。これにより、1つの皮膚細胞の長さ程度(約30μm)にまで焦点を合わせることができるという。

  • PAMとNB-PAMのビーム形状や焦点の比較

    PAMとNB-PAMのビーム形状や焦点の比較(出典:カリフォルニア工科大学)

  • マウスの肝臓組織を従来のPAMで画像化したもの(左)とNB-PAMで画像化したもの(右)

    マウスの肝臓組織を従来のPAMで画像化したもの(左)とNB-PAMで画像化したもの(右)(出典:カリフォルニア工科大学)

なお、同じ研究成果は2022年12月1日に国際学術誌「Nature Photonics」にオンライン掲載されている。

いかがだっただろうか。研究チームによると、このNB-PAMは、がん細胞を完全に除去し、正常な細胞を最大限に保存することを可能にするという。がんの摘出手術において、部分切除によって正常な細胞を切り取らずに済むのだ。とても素晴らしい技術だ。