Empa(Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology)は、水で活性化する使い捨て紙電池を開発。この電池は、追跡型スマートラベルや環境IoTセンサー、医療診断デバイスなどに利用できるという。では、水で活性化する使い捨て紙電池はなぜこのような利活用が適しているのだろうか。今回は、そんな話題について紹介したいと思う。
水で活性化する紙電池とは?
まず、Empaが開発した「水で活性化する使い捨て紙電池」とは、どのようなものだろうか。以下の画像にあるEmpaと書かれた長方形の紙片をご覧いただきたい。
この紙片は、全体に塩化ナトリウムまたは食卓塩が分散している。そして、電池のプラス極として機能するグラファイトフレークを含むインクが表側に、そしてマイナス極として機能する亜鉛粉末を含むインクが裏側に印刷されている。さらにこれらのインクの上には、グラファイトフレークとカーボンブラックを含むもう1つのインクが印刷された構造となっている。
では、どのような原理でこの電池は動作するのだろうか。
まず、紙片に少量の水を加えると、紙の上の塩が溶解することで電解質として作用し、荷電イオンが放出される。これらのイオンは、紙を通して分散することによって電池を活性化し、その結果、マイナス極側のインク中の亜鉛が酸化して電子を放出する。そして、外部回路で閉じることにより、これらの電子は、亜鉛を含むマイナス極からグラファイトおよびカーボンブラックを含むインク、ワイヤ、およびデバイスを介してプラス極のグラファイトに移動するのだ。
Empaは、この使い捨て紙電池の性能を確かめるために、液晶ディスプレイ付きの目覚まし時計に電力を供給する実証実験を行った。この電池の性能を分析したところ、2滴の水を加えた後、バッテリーは20秒以内に起動し、エネルギーを消費するデバイスに接続されていない場合には、1.2Vの安定した電圧に達することがわかったという。開始1時間後には、紙の乾燥により電池の性能が大幅に低下してしまったが、さらに2滴の水を追加することで、電池は0.5Vの安定した電圧をさらに1時間以上維持したという。
この電池は、紙と亜鉛という生分解性の素材を使用しているためリサイクルも可能で、環境への影響を最小限に抑えることができるという素晴らしい特徴を有している。また、亜鉛の量のコントロールによって電池の長時間動作を可能とすることができる。他にも、紙という特徴から軽量化というメリットもある。さらには、水だけで動作ができるため、ある程度の湿度がある環境下であれば、長時間動作も可能となるのだ。
いかがだったろうか。従来からの電池の課題を補う、もしくは、その課題を解決する新型電池が登場している。この電池もそれらに該当する素晴らしい電池であり、さまざまな分野で利活用される未来となることだろう。楽しみだ。