透明人間!? このキーワードに反応した読者も多いかもしれない。

そのかたは幼いころ一度は「透明人間になれたらなぁ〜」、そんなことを考えたことがあるかたではないだろうか? 

今回紹介する技術は「光学迷彩」という技術の一種で、光学的に対象物を透明に見せることができる技術だ。この技術を開発した企業は、HyperStealth Biotechnology(以下、ハイパーステルスという)。

今日は、このハイパーステルスはどんな企業なのか、その透明人間になれる技術とはどのようなものなのか、そしてこの技術はどのようなところで利用されるのか、そんな内容を紹介したいと思う。

ハイバーステルスの透明人間になれる技術とは?

ハイパーステルスは、カナダに所在する軍用ユニフォームの世界的なメーカ。1999年に設立され た。カモフラージュパターンに定評があり、アメリカ軍、ヨルダン軍など世界50カ国以上の軍、政府、警察のカモフラージュパターンを開発した実績がある。

では、本題の透明人間になれる技術について詳しく見ていこう。この技術では、紙のように薄い透明なシートを置くだけで透明人間が実現できる。以下の動画をぜひ見て欲しい。


■ハイパーステルスの透明人間技術の動画

動画ではハイパーステルスのCEO、Guy Cramer氏がこの透明なシートを隔てた裏側で姿が消えるのがわかるのだ。ほかにも盾のような形状した透明なシートを持ちながら移動している映像もある。このときもGuy Cramer氏の姿は消えている。

  • ハイパーステルス

    動画にも出てくる場面だが、シートを隔ててGuy Cramer氏が半分消えているのが分かる(出所:ハイパーステルス)

どうして人間が隠れることができるのだろうか。実はこのシートは、レンチキュラーレンズの原理を利用している。レンチキュラーとは、シートの表面に細長いかまぼこ状の凸レンズが無数に並んだシートのこと。

このかまぼこ状の凸レンズは、かまぼこ状の(凸側)曲率側から軸方向の像はそのままだが、半径方向の像は、消えるか見えにくくなる性質がある。このシートを2枚互い違いに合わせたもので、透明人間を実現しているのだ。

このシートは、軽量であるためどこへでも持ち運びすることが可能だ。しかも電気で駆動するのではないため、電源は不要。そして広げるだけというシンプルな作業で済む。さらに安価である点がメリットであろう。

この技術は、「Quantum Stealth」と名付けられた。ハイパーステルスによるとQuantum Stealthは、第二次世界大戦前からすでに開発できた、それくらいの簡単な技術だと発言している。

ではなぜ、昔にこの技術が発見、開発されなかったのかについて、昔から多くの物理学者が不可能であるという固定概念があったため、研究開発に着手すらしなかったためだと語っている

もうひとつ、このシートは、可視光だけでなく紫外線、赤外線、短波赤外線の領域でも機能するという。このすごい機能も動画に収められている。夜でも昼夜でも問題なく機能するのだ。


■Quantum Stealthが紫外線、赤外線、短波赤外線の領域でも機能する動画

軍用のカモフラージュパターンの開発に強みを持つハイパーステルスだからこそ、この透明人間になれる技術を開発できたのかもしれない。

余談だが、漫画ドラえもんでも透明になれる道具がいくつか登場する。石ころぼうし、かくれマント、透明人間目薬などだ。このうち、Quantum Stealthは、かくれマントに類似性を感じる技術だ。

実は透明人間だけではない!? ほかにも利活用シーンがたくさん!

このQuantum Stealthは、透明人間になれる技術だけではない。ほかにも利活用シーンが紹介されている。例えば、太陽光パネルの発電量を増加させる方法だ。

  • 太陽光パネル

    太陽光パネルのイメージ。実際の発電量の増加に対する手法は動画をご覧いただきたい

動画を見ると、A4からA3くらいのサイズの太陽光パネルの周辺に透明なQuantum Stealthシートを設置する。設置する場合と設置しない場合を比較すると発電量が約3倍に増加する結果を得たという。Quantum Stealthシートの設置方法、枚数、太陽光パネルの半導体の種類などを変えたりし、さまざまな検証を行っている。


■Quantum Stealthが太陽光パネルの発電量を増加させる動画

ほかには、ホログラム技術。こちらも動画をご覧いただきたい。Quantum Stealthシートに綺麗な映像が投影されているのがわかる。Guy Cramer氏の姿が立体的に投影されているシーンもある。驚くのは、とても簡素なシステムで実現している点だ。つまり安価でホログラムを利用できるのではないだろうか。


■Quantum Stealthがホログラムで利用される動画

最後は、自動運転車での利活用の可能性だ。

  • 自動運転のイメージ

    自動運転のイメージ。なぜ自動運転に利用できるのかはぜひ動画をご覧いただきたい

自動運転車では、LiDERというシステムが搭載されている。Light Detection and Rangingの略だ。LiDERとは、レーザー光を走査しながら対象物に照射し、その散乱光、反射光をセンサで観測することで対象物までの距離や対象物の性質などがわかる技術だ。

実は、LiDERで使うレーザー光はひとつ。これを複数に増やしてやれば、さらに情報量が増え、解像度も高まり、迅速に情報を入手することでより安全性が増すのだ。そこで、Quantum Stealthシートの登場だ。Quantum Stealthシートを使うことで、ひとつのレーザー光を400万近くの小さなレーザー光に分割できるのだ。


■Quantum Stealthが自動運転車で利用される可能性の動画

いかがだっただろうか。今回は、透明人間になれる技術としてハイパーステルスのQuantum Stealthを紹介した。

光学迷彩の技術は、Quantum Stealthのほかにも存在する。電気的な制御により負の屈折率を実現する材料によって実現したり、映像投影方式という周囲の映像、景色に対象物を光学的に溶け込ませる技術などだ。主に軍事目的で活用されるシーンが多いが、ハイパーステルスは、軍事以外の利活用シーンも考察し発信している、その点にも感銘を受けたのは私だけだろうか。