欧州宇宙機関(ESA)では、宇宙向けの3Dバイオプリンティングの開発が進められている。

宇宙用というのは、無重力でも製造できるという意味合いが強い。現在までに人の血漿(けっしょう)をバイオインクとして人工皮膚と人工骨の開発が進められている。

今回は、そんな話題について触れたいと思う。

宇宙用3Dバイオプリンティングとは?

3Dバイオプリンティングは、紹介するまでもないだろう。

3Dプリンタで作られる人間の組織を模擬した人工的な組織のことだ。3Dバイオプリンティングを活用して、この地球上では、すでに人工骨や心臓などの人工臓器が作られている。 そこで、このテクノロジーを宇宙という無重力空間でも使えるテクノロジーにできないか、そんな発想でESAは開発を進めている。

その発端は、火星までの移動のようだ。現在のテクノロジーでは、地球から火星まで到着するのに180日かかると言われている。宇宙船という狭い閉鎖空間で、搭載できる食料なども限定されるなか、人工冬眠というテクノロジーも考えられるが、ここでは、この180日間に、宇宙船の乗組員が健康を保つことにフォーカスされている。

この骨の成分は、人の血漿をバイオインクとして採取できるという。このバイオインクにメチルセルロースとアルギン酸塩を加えて粘性を高め、宇宙という無重力でも製造が可能になるようにしている。

さらに人工骨の構造を強化するために、リン酸カルシウム骨セメントも加えていて、人の体で成長するように、人間の幹細胞も入れているという。

  • 3Dバイオプリンティングされた人工骨

    3Dバイオプリンティングされた人工骨(出典:ESA)

  • 3Dバイオプリンティングされた人工骨(拡大)

    同じく3Dバイオプリンティングされた人工骨(拡大)(出典:ESA)

3Dバイオプリンティグされた人工骨の動画がESAより配信されている。

3Dバイオプリントされた人工骨の動画

また無重力環境を模擬した環境下での3Dバイオプリンティグの様子の動画も存在する。

無重力環境を模擬した環境下での3Dバイオプリンティグの様子

合わせて是非ご覧いただきたい。逆さにした状態でうまく3Dプリンティングされていることがわかる。バイオインクの粘性が高い、そんな印象だ。

ESAでは、人間の細胞、および皮膚、骨、軟骨などの体組織を再生するために必要な栄養素と材料であるバイオインクから、10年後くらいには、人工臓器全体を3Dバイオプリンティングできるように研究開発を進めているという。

  • ESAが検討する宇宙向けの3Dバイオプリンティング

    ESAが検討する宇宙向けの3Dバイオプリンティング(出典:ESA)

いかがだっただろうか。今回は、人工の骨にフォーカスしたが、実は、現時点では骨だけではなく、人工の皮膚も作ることが可能だという。

人類が宇宙で活動するために必要不可欠となる、宇宙環境での医療テクノロジーが着実に進められている印象だ。