2022年3月24日、沖縄の美ら海水族館と沖縄美ら島財団総合研究センターは、独自に開発したサメの人工子宮装置を用いて、深海性の発光するサメ「ヒレタカフジクジラ」胎仔の長期育成と人為的な出産に成功したと発表した。
では、なぜ美ら海水族館は人工子宮装置を開発したのか、なぜこのような取り組みをおこなっているのか、今回はそんな話題について触れたいと思う。
美ら海水族館が開発した人工子宮装置とは?
人工子宮装置とは、子宮内環境を再現し、胎仔を人為的に育成するための装置のことだ。 装置内は、海水とは異なる特別に調整された液体で満たされていて、胎仔に最適な環境が保たれているのだ。
この人工子宮で育てられたのは、深海性の発光するサメ「ヒレタカフジクジラ」。
ヒレタカフジクジラとは、日本からオーストラリア、ニュージーランドなどの太平洋の水深260m~860m付近に生息している最大全長40cmほどの小型のサメ。体の表面には微小な発光器があって、微弱な青い発光をする。
2020年10月29日に、沖縄本島西岸の水深500m付近の海底から、メスの妊娠個体が採集され、その後、親個体は死亡したというが、親個体の体内からは全長約10cmの胎仔が採取され、美ら海水族館が開発した人工子宮装置で、146日間にわたり人為的に育てたのだと言う。
そして、人為的出産に世界で初めて成功している。
では、なぜ美ら海水族館は、この人工子宮装置を開発したのだろうか。
理由は、美ら海水族館では、沖縄の生物多様性や、その保全活動に取り組んでいるからだ。そのなかで、近年特に希少サメ類の個体数が減少しているという実情があるのだ。そのため、この希少サメ類の研究、保全と持続可能な利用に寄与することを目的としている。ちなみに開発した人工子宮装置および飼育法については、現在国際特許を出願中だ。
いかがだっただろうか。人工子宮装置と聞くと近未来感がある。以前にも2017年にアメリカのフィアデルフィア小児病院で、子宮を模擬した「バイオパック」というプラスチック製の人工子宮で早産のヒツジの生育に成功した例があった※1。
また、最近は、中国で人工子宮で胎児を育てるロボット乳母「AIナニー」を開発というニュースも報じられている※2。この中国のニュースは、「国際法」に違反するとされていて法律面、倫理面などで議論となりそうだが、いずれにせよ、人工子宮装置はいずれあらゆる生物を救う1つの方法になるだろう。
美ら海水族館「サメ博士の部屋」では、サメの人工子宮装置の展示を開始。装置内で育成中のサメの胎仔を見ることができるという。展示は2022年5月15日までの予定だ。一度足を運ばれてはいかがだろうか。
参考文献
※1https://www.nature.com/articles/ncomms15112
※2https://www.scmp.com/news/china/science/article/3165325/chinese-scientists-create-ai-nanny-look-after-babies-artificial?module=leadherostory&pgtype=homepa